もはやなにを言っているのか認識できないほどの歓声が上がっていた。
ライブに来ている客のノリというのは、実は結構さまざまで――大いに体を動かしてリズムにノろうとする人と、静かにゆったりと耳を傾けるだけの人との、両パターンがある。
学祭ライブなどのアマチュアイベントでは特に後者の割合が多く、観客層の中間ラインあたりで、そんな別々のタイプの人たちとの境界線ができているような気がした。
だが、真人たちのバンドは――容易にそんな垣根など、ぶっちぎってしまったように見える。
理樹たちが今まで積み上げてきた客のノリなんてものは、軽く一曲目で飛び越し、新たな次元へと皆を連れていってしまった。
そんな最強の軍団たちに――もはや理樹は、感嘆する暇もなく、自分も皆と同じように猛れる観衆の一部と化すほかなかった。
『おおおおおぉぉぉぉぉっしゃああああぁぁぁぁ――――っ! 見たか! この筋肉をぉ!』
――筋肉なんだ!?
興奮する頭でもしっかりとツッコみを入れ、理樹は、ステージ上でマッスルポーズを取っている真人のことを見上げる。
真人は片腕を使って自慢の上腕二頭筋なぞを披露しながら、「はっ!」と不遜げに顎を突き上げ。
『おいおい、まだ一曲目だぜぇ……そんなんで耐えられんのかよ、これからの筋肉台風によぉ……はっ、強ぇぜ、今年のは』
意味のわからないMCであることこの上なかったが、観客はそれでも大盛り上がり。
わーわー、と自らの尻尾を振るように、次の曲を早くやってくれと懇願する。
真人はそんな願いなど誰が聞き入れてやるもんかと、尊大な態度で見下ろし返し。
『てめーらに言われずともやってやるつもりだよ! おおおぉぉぉらぁぁああ――っ! とっとと次行くぜぇ――っっっ!』
やっぱり堅苦しい自己紹介なんか、最初っから全くする気なし。男らしい盛大な巻き舌で、間髪入れず次の曲を始めるようにバンドの全員に指示。……どうやら、どうあっても観客を逃がす気などないようだった。
そして、すぐにそれに応えるようにリードの来ヶ谷の前奏が始まっていく。
ディストーションを切った、どこか物寂しげな細切れサウンド。
理樹がなんとなく、廃虚になってしまった村教会を頭の中にイメージすると、それと同時にドラムとベースの跳び上がるような行進の音色が奏でられ始める。
あ、くる――と思った時には、もう既にその瞬間はやってきていた。
重戦車がまた再び、バリバリバリと、すべてを踏み砕くように、行進を始めた。