自分が体育館に到着するやいなや、速攻で岸田さんから言いつけられたのはドラムの設置だった。
 岸田さん曰く、「自分の楽器は自分で出せ。ドラムだけが出せないせいで、ほかの機材の設置が滞ってんだよ。早くしろ。……あ? ごめんなさいだ? そんなこと言ってる暇があったらとっとと動け、馬鹿」とのこと。華麗に決まったジャンピング土下座もそこそこに、そんなことはまったく期待していなかったらしい、僕のお師匠さんである岸田さんの冷静すぎる叱咤が飛んで、みんなへの挨拶も待たず、強制的にライブ準備へと参加させられた。……強制的にたこ焼きも奪い取られた。
 ほかのドラマーの人たちと一緒に、スローン、バスドラム、スネア、タム、フロアタム、ハイハット、ライドシンバル、クラッシュシンバル、ペダルと順々にドラムセットを出していく。……セッティングは未だにわけがわからないので、全部岸田さんに任せたままだ。初めてまだ一ヶ月、自分好みのセッティングもへったくれもない。その分僕は、荷物運びなどの単純労働に奔走することになった。
 途中で、真人と並んで重そうなマイクスピーカーを運んでいる謙吾を目にしたが……どうやらまだ、落ち着いて話ができる雰囲気ではなかったようなので、取りあえず後回しにすることに。
 そして僕との挨拶もそこそこに、照明のストロボできゃっきゃと遊び出す葉留佳さん&来ヶ谷さん。僕よりもストロボのチカチカの方に興味があるらしい。がっでむ。一緒に機材で遊ばないかと言われたが断った。そんなマニアックな遊びはしない。それよりも仕事してくれ。僕が言えたことじゃないが。
 やがてそうこうするうちに、僕は真人や謙吾と共に荷物運びの鬼と変貌し、もう何回行ったかわからない控え室へ猛ダッシュ。「悪い荷物はいね〜が〜!」と叫ぶ。冷静に考えればいてほしくないもんであるが。そんな荷物。
 すると、その一声に反応したかのように、向かいの扉がカチャリと開かれ、そして、そこでぞろぞろと中に入ってきたのは。

「……おっ、理樹じゃないか!」
「あ、恭介」

 鈴と西園さん、そして恭介――いわゆる、ブラック黒子軍団――ではなく、ライブサポート組だった。
 見ない見ないと思っていたら、体育館の外に出ていたのか。なにしてたんだろう? ……と僕が思う間もなく恭介は、長年戦争で離ればなれになっていた親友とやっと邂逅できたお爺ちゃんのように顔をほころばせ、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるなり、頭をガシガシと押さえつけるように撫でてくる。……親戚のオッサンかこの人は。

「おいお前、どこ行ってたんだよー! 準備までサボって! 心配してたんだぞ? 昼にここに来てもいねーし……、その後もなかなか現れてくれねーし。もしかして、あれか? ……いや、もしかしなくてもあれだろう? そうだろう? ……なあ、俺にだけでいいから教えてくれ。どうなったんだ……理樹。うまくやれたのか? ……ん? いや、もうメールで聞いちまおうと思ったんだが、状況によっちゃ野暮かと思ってな……で、どうなんだよ。早く教えろって」

 もうこんな、中二病的なノリで話しかけてくる時点で相当野暮だというものである。……正直、まともな恋愛したこともない&漫画での知識しか持っていないこの人に、ノリがどうこうとか説明したってどうしようもないだろうが。
 僕が呆れてため息をつきつつも、「別になにもないから」と一言告げると、恭介は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、呆然とこちらを見つめ返してくる。

「は……だって、あいつと会ったんだろ?」
「会ったけど?」
「え……キスとかは?」
「するわけないでしょ!」

 顔が若干赤くなるのを自覚しながらも、そのようにアホ恭介にツッコみ返す僕の横目には、後ろの方で明らかに反応を変えた鈴の姿が見えた。
 ……ちくしょう。な、なにがキスだよ。
 そんなこと簡単にできたら、僕はなにも悩まないっていうのに。しかもまだ恋をしてから一日しか経ってないんだぞ。どんだけ軽薄なんだよ僕は。
 僕がそう心中で悶々のセルフ嵐を巻き起こしていると、ずいっと目の前に出てきたADの鈴が、帽子を被った上からでもよくわかるくらいに、眉間にしわを寄せてきて。

「おい理樹、あいつってだれだ? ……もしかして、ざざこか?」
「えうっ」
「鈴さん。直枝さんは、これからライブが控えてますから」
「わかっとる」

 西園さんの諫言も、低い返事一つでぴしゃりと言い止められる。……僕としては、その続きの言葉がどうしても気になるのだが。「ここは控えてください」なのか「手加減してやってください」なのか。……言い止められても特に影響なくすました態度を続けているあたり、後者の方なのだろうか。色男は馬に蹴られて死ねと言いたいのか。どうなんだ、西園さん。

「むっ!」
「うっ……」

 西園さんの方を訴えがましく見つめていると、鈴の強烈な眼光が飛んできた。
 ……と、とんでもなく怒っている。すぼまった瞳孔がより一層、僕にそう感じさせるみたいだ。
 さすがの恭介も実の妹には勝てないのか、「頑張れよ、理樹」とでも言わんかの眼で、冷や汗だらだらなままこちらにギチギチのウィンクをしてきた。
 荷物運びで後ろを通っていった葉留佳さんは、こちらをチラりと覗いていくや否や、「あ、姉御ーっ! 修羅場ですぜ、修羅場!」とかなんとか叫びだして慌てて向こうへ駆けていく。……正直迷惑すぎるぞ、下っ端A。
 ……いやしかし、どうしたもんだろうか、この状況。
 鈴の想いは知っている。
 向こうも、昨日の僕や笹瀬川さんと同じ、自分の気持ちが正確に定まっていない状態なのであろうが……それでも「好きだ」という言葉は確かに聞いた。
 けれど……僕にはそれに応えられるだけの資格もないし、鈴には悪いが……応える気も今のところない。
 僕にとって鈴は妹のようなものだし……そもそも僕が好きなのは、鈴ではなく笹瀬川さんなのだ。今日もまた、その気持ちを強くしたところでもある。
 だが……だからと言って、鈴にとっては「はいそうですか」と簡単に納得できる話でもない。
 これは理屈じゃない。気持ちの問題だ。
 それは理解できている。……だが、どうすれば。

「理樹」
「……な、なに?」
「さささとしたのか。……そ、その、ちゅーを」
「い、いやっ! してないしてない! するわけないから!」
「むぅ」

 それを聞いた鈴は、少しだけ顔を安心で緩ませたが、依然として険しい顔のままであるのは変わりがない。
 嘘……だと思っているわけではないと思う。長いつき合いだ。重要な場面で相手が嘘をついていたら一発でわかるはず。
 だが、確かにこの男の言ってることが本当だと思うからこそ……怒りの矛先がうまく見つけられず、もやもやとしているのだろう。組んだ腕の先、右手の人差し指がトントン、トントンと苛立たしげにリズムを叩いているのが見える。ここに真人がいたら軽く蹴りが飛んでるかもしれない。

「理樹……これだけは、しょーじきに答えろ」
「う、うん」
「さっきあたしはお前を昼飯にさそおうと思ってここに来た。……けれどいなかった。お前は……どこに行ってた? ……誰と会ってたんだ? さぁ言え」

 鈴の、とてもめずらしい真剣に怒った表情。
 ここで蹴りが真っ直ぐ僕に飛んでこないのは……鈴にとって、そんなんで解決する気なんざさらさらないという……とてつもないほど真剣な議題であるという、なによりの証左。
 適当に答えることなんか決して許されない。
 仲間として、とか、親友として、とか、そんなこと鈴や僕にとってはまったくどうでもいい。
 鈴と僕、というただシンプルな関係。
 それがどれだけの信頼で成り立っているのか、ただ、その答えを出す。それだけのつもりなのだ、鈴は。
 強いて言うとすれば……僕が、笹瀬川さんを好きであり続けるために。
 そのために僕は、ここでは最大の誠意をもって答えなければならないだろう。
 ならば――と、僕は僕らしく、相手の目を柔らかく見返して。

「……僕は、さっきまで笹瀬川さんのところに行ってたよ。……それて、そこで二人でご飯を食べたんだよ」

 ……その言葉を聞いた鈴は、一瞬目を見開いて固まったけれども……やがてゆっくりと目を閉じていって、長い息を吐き。

「じゃあいい」

 と一言だけ告げて、またすぐに、いつもの鈴の顔に戻ってくれた。
 いや……でも。

「え……鈴、いいの? それでも」
「……うん。理樹はあたしにうそをつかなかったからな。ほんとは、こまりちゃんに理樹がどこに行ったか訊いてたんだ。そしたらざざこのところに行ったって言うから……ほんとーはあたし、理樹がどこに行って、なにをしてたのか、だいたい知ってたんだ。ごめん」
「え。う、ううん……そんな、気にしてないけど」

 言ってから、鈴はまた……長い長いため息をついた。
 別にそれは、落ち込んだからというか、全然そういうものではなくて……なんか、鈴の怒る気持ちとか、相手を恨む気持ちとか、馬鹿にする気持ちとか、そういうのを自分の中から追い出す、そんな、鈴なりの儀式であるように見えた。
 ……別に僕には、鈴が自分をそうやって試していたからと言って、鈴のことを怒ろうなんていう気持ちはまったく湧いてこないし、いまだ申し訳ないという気持ちの方が強い。
 信頼というのは、まさしくそういうところから生まれるものだと知っている。
 人間関係において大事なのは、相手への言葉じゃない。態度なのだと。
 それを僕らリトルバスターズは本能的に理解しているから……こんなに簡単に信頼を取り戻せたのだろう。もちろん……これで鈴との問題が解決したというわけじゃ、全然ないんだけど。

「理樹」
「ん?」
「ささみと遊んだ分……またあたしとも、遊んでくれ。それで今は……もういいから」
「……ん……わかった」

 けれど鈴の絞り出すような声に……僕も、それを断ることができなかった。
 こんなところが優柔不断とか八方美人とか言われる所以なんだろうなぁ……と心のうちで悩みつつも、それでまた、少し固さが取れた鈴の顔を見て、別にそれでもいいやと思ってしまう。
 恭介だけは、「本当にそれだけでいいのかよ」とでも言いたげな目で鈴を見つめていたが……鈴は、そんな視線を受けてもなにも言わなかったし、なにも感じていないようだった。
 確かに僕も少し、これで助かった身でありながらも……鈴は本当にそれだけでいいのか、という疑問を晴らせないでいたが、鈴がそれで納得しているのであれば、特になにも言うつもりはないでいた。
 それには西園さんも同意見だったようで、チラリと少しなにか言いたげな視線を鈴に寄越した後、すぐに目を閉じてしまった。
 この件はひとまずこれで収束か――と。けれど僕が安心のも束の間、すぐにさらなる大事件が勃発することとなる。
 すなわち――その渦中に今までいた鈴は、一転して、けろりとした表情を取り戻し、

「でも、べつにあたしはいいと思う。さささとなら」
「は?」

 なんていう、その場の雰囲気を思いっきりぶち壊す、空気読めなイストの権威である葉留佳さんさえも真っ青な、そんな爆弾発言を口になさったのだ。
 これには隣で粛々と見守っていた恭介や西園さんも、ポカ――――……ンと口が開いてしまうのを禁じ得ず。
 思わず僕も、身を乗り出して鈴に聞き返していた。

「ちょ、鈴! いいの!?」
「よくはない」
「どっちなの!?」
「んーっ……お、お前うっといわ。そんな寄るなぼけ。あたしの話をちゃんときけ。あほ」
「……」

 鈴に思いっきり嫌そうな顔で手をぱたぱたされ、渋々ながら顔を引き戻す。……まだ鈴なにも言ってないじゃん、というツッコみはなしに。
 ……しかし、いいと思うけどダメとは、一体どういう不思議命題なのだ。……新手のネタか。IQサプリか。
 僕が、はやる気持ちを精一杯抑えるようにしつつ、真剣に、鈴のいつものマイペース問答の正解を探していると……鈴は腕を組んで少し考えるようにしてから。

「ささみとなら……べつに、お前はどこかに行ったりしないだろ。だからだ」
「へ?」
「だーかーらっ、あのバカとなら、お前はあたしの近くからはなれんだろと言っとるんじゃ、ぼけ!」

 少し照れたように、それでもシャ――ッと威嚇するようにがなる鈴に、隣にいた恭介はやっと得心がいった、という顔をして嬉しそうにうんうんと頷く。
 けれど僕には……なにがなんだかわからない。
 鈴は一体、僕になにを望んでいるのか。乙女心は複雑というが……鈴のコミュニケーション能力の低さがいっそう、そんな難解さに拍車をかけてしまっていて、この言葉はどうとでも解釈できてしまう気がした。
 僕がそうやってあれこれ頭を悩ませていると、恭介はポンポンと、僕と鈴の両方の頭を優しく叩き。

「つまり、こういうことだろ、鈴?」
「?」
「お前は……理樹がほかの奴と恋人になることで、ただ自分から離れていってしまうのが怖く、それが嫌だった。そうだろ?」
「……。……うー、うーむ、まぁ……まちがってはいないな。……っていうか、なんでお前はあたしが理樹のこと好きだって知っとるんだこらぁーっ!」
「え、誰もそんなこと言ってな――ぶおっ!?」

 得意顔でわかりやすく説明してくれた恭介の首筋に、鈴のハイキックが叩き込まれる。
 早とちりも甚だしい鈴だが、一度さっきのやり取りを聞いてしまえば、誰だってそんなこと簡単に想像がついてしまうだろう……鈴は秘密にしていたかったみたいだが、少なくともここにいる西園さんや、後ろで隠れながら覗いている葉留佳さんや来ヶ谷さんにはモロバレだったと思う。……僕も少し恥ずかしい。
 ……でも、これはなにか、ちょっと違うんじゃないか?
 鈴は僕のこと、本当に好きなのか? いや、大事に思ってくれているというのはわかるが。

「いってぇな……実の兄に向かってなんてことすんだよ、お前は!」
「うっさいわ! 乙女のぷりんばしーをのぞく、でりかしーのないやつにはこれくらいがお似合いじゃ、ぼけっ!」
「だから、それを言うならプライバシーな。はぁ……ったく、我が妹ながら可愛いもんだ。お前にはまだ……ちと普通の恋愛は早いかもな」
「!? な、なんだと!?」

 ……ちょっと一瞬怪しい発言があったのは、黙認してやることにして。
 恭介は軽くため息をつきながら、やれやれと首を振ってみせた。
 当然として鈴はそれに食ってかかろうとするが、デリケートな話題なためか、ひとまずは話を聞く体勢のまま。
 無言でそれを見守る僕や西園さん、後ろほか数名からも、一様に恭介の方へと視線が注がれ。

「なぁ鈴」
「なんじゃ、馬鹿兄貴」

 鈴は帽子のツバを掴んで、位置を整えるようにして聞き返す。

「お前は、理樹が自分の下を離れて行ってしまうのを恐れたようだが……それは別に、理樹に限ったことじゃあないんじゃないのか? 例えば……真人だったらどうだ?」
「あんなやつ、べつにいらん」

 ずるっ。
 開始五秒であえなく破られた恭介の推理は、その場にいた人間を例外なくずっこけさせた。
 しかし当の恭介は、まぁまぁと鈴をなだめ、話を持ち直そうとする。
 
「別に好きとかどうこうってわけじゃないさ。例えば真人が山ごもりしたとして……お前の元からいなくなったとしよう。それでお前は、何日まで耐えられる?」
「もう帰ってこなくていい」
「いいから真面目に答えろ」
「……うみゅう。めんどくさいが……まあ、三日くらいだな」

 すくなっ。
 恭介は、そんな答えを素で口に出す鈴に少々苦笑しながらも……とりあえずその話に合わせるようにして。
 
「そうだろう? 真人は貴重なボケ役だからな」
「ああ。あいつがいないと、いいストレスはっさんにならん」

 あ、真人ってストレス発散先なんだ……地味にかわいそう。
 鈴は偉そうに腕を組んで、したり顔のまま話していたが……恭介は、そんな鈴を見てニヤリと口を歪め。

「じゃあ、理樹は?」
「ん……たぶん、二日」

 あ……な、なるほど。
 僕もやっとこの件について納得がいき、ポンと軽く手を叩いて、あーあーと頷いてみせる。
 それを見た鈴は、まったくわけがわからんといった顔をしていたが、どうやら周りの連中がみんな同じように頷いているとわかると、途端に困惑顔を浮かべ、おろおろと首を巡らせ始めた。

「そういうことだ。真人と理樹との違いなんて、所詮お前にとってそれくらいだってことだな。単なるイメージの違いさ。真人と理樹は、言ってみればお前にとって陰陽のようなもの。どっちがどっち……とは言わないが、ただお前はそれを勘違いしてしまったんだ。好き……って気持ちも、きっと背伸びしたいとか、大人になりたいとか、そういう無意識な気持ちと絡み合って、そこから発展してったものだろう。恋愛モノだったらよくあるパターンだぜ」
「……ですね」

 うんうんと知った顔で頷き合う二人の黒子組に、鈴はいまいち納得がいかないような顔になりながらも、腕を組んだまま偉そうに恭介へと問いかける。

「……つまり、お前はなにをいいたいんだ?」
「つまり、理樹のことをいっちょ前に好きだとか言う前に……もっとお勉強しなきゃなってことさ、鈴」
「なにい……あたし、べんきょーはちゃんとやってるぞ」
「そっちの勉強じゃねーよ。もっと人間として大事なことさ」
「……うみゅう? ぜんっぜん、わけがわからん。なんだ理樹、いんよーって」
「あ、あはは……」

 自分が、鈴からそんなふうに見られていたことに少し驚くとともに、ちょっぴり残念になりながらも……なんだか、かかっていた胸のもやもやが、綺麗に取れた気がした。
 ……僕は確かに、鈴に好かれていた。
 でもそれは、僕がいないと鈴がどうしようもできないとか、いつも僕のことばかり考えてしまうとか、そんな狂おしさ溢れるような愛情ではなかった……のだと思う。
 言うなれば、強すぎる友情……に近いようなもの。
 他の子とばかり仲良くしていて、自分に構ってくれないと、なんだか不愉快だ。このくらい。
 それを鈴は、僕に元々抱いていたイメージと相乗させて、好きなものだと勘違いしてしまったのだ。
 そして、恋情としてそれを少しずつ発展させていった。
 その気持ちは、決して間違ってなんかいなかったと思う。それで実る恋もたくさんあると思う。
 けれど……鈴はそれに気づけたんなら、もう少し、時間を置いて周りを眺めてみた方がいいかもしれなかった。
 そんなままで僕に恋をしてくれても……きっとそれは、叶わないから。今日みたいに、いつの間にか他の子に負けちゃうから。
 鈴がいつか……もっともっと、より本当っぽいものに進んで、それでもまだ、僕のことが好きだと言ってくれるなら……そのときは僕も、もっと真剣に考えよう。
 約束だ、鈴。
 僕は……恭介に頭をなでなでされて、照れくささで、ADの帽子を取って引っぱたいたりしている鈴を眺めながら……心の中で、そう……誓った。

 

第39話 SSメニュー 第41話

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