バタン。
「た、ただいまぁ…。うあ…」

ドサッ。トットットット…。…ドスンッ!
「〜〜…ぷぁー…」

理樹は部屋に戻って来るやいなや、荷物のバッグを放り投げ、自分のベッドに突っ伏してしまった。
そういえばここは寮なのに今の”ただいま”は少し変だったかな、なんてどうでもいいことを考えつつ、いや今それよりも僕はこの眠り慣れた自分のベッドで寝なきゃいけないんだ、寝たいんだ、とばかりに目を閉じて思考を終了し、次の瞬間にはもうすぅすぅと寝息をたてていた。

 数分後。
「ふぅー…。おーい理樹ぃー。……って、アレ?」
姿が見えないことを不思議に思ってか、ドアの所にいた真人は部屋の奥に入って中を見渡した。

「なんだよ、まーた寝ちまってるのかよ。車の中でも相当寝てたのに、だらしねぇなぁ……っと」
真人は理樹を起こさないように、布団を丁寧にかけてやった。
「まっ、あれは久々にハードだったし、しゃぁねぇか」
だらしないという割に、彼は優しい顔で笑った。
彼は粗暴な男と見られがちだが、意外な所で紳士的だったりする。

「さて、と。理樹が寝ちまったんなら、どうするかな。…お、そうだそうだ、筋トレがあったじゃねぇか」
危ない危ない、とバッグの中からダンベルを取り出す。
「よし…。ふっ…! ふっ…! 筋肉っ! …筋肉っ!」
親友が眠るベッドの横で筋トレを開始した。
…彼も今は相当の疲労を感じているはずだが、彼の日課にはそんなの関係ないのかもしれない。


彼らは今日、修学旅行から帰ってきたばかりであった。
修学旅行といっても正規なものではなく、彼らが勝手に授業を抜け出して行ってきたものである。
学校側としては到底許せる行為ではなかったが、彼ら”リトルバスターズ”はそんなことには全く気を留めていないようだった。

彼らの自称”修学旅行”は、一泊二日のものであったが、真人の言うとおりその日程は相当ハードなものであった。

夕方の少し前には目的地の海に到着し、まずは水遊び。
時期的に泳ぐことは出来なかったが、彼らはそれでも十分楽しんでいた。
そしてバーベキュー&花火大会。
この辺の用意周到さは、彼らの元リーダー、棗恭介ならではの能力である。

どこで用意したのか分からない程の大量の花火をぶっ放して散々遊んだ後、露天風呂にて恭介主導の女湯覗き騒動。女性陣の白い目は理樹にまで向けられた。

その後は、チーム対抗の卓球大会。くたくたでいまいちやる気が出ないメンバーも巻き込んで行われた。もちろん恭介主導。

その後は部屋に戻って枕投げ大会。理樹はほとんどもう我関せずの状態で部屋を出て行こうとしたが、背中にあらん限りの枕の集中攻撃を受けたので、カッとなってつい反撃。男3人と一緒になって遊んでしまったのだった。
もう夜も遅い時間になり、さすがにこれ以上は旅館に迷惑だということで、闘いは打ち切られた。

目がもはや線になりつつ、やっと寝られるー、と一安心した理樹だったが、甘かった。
がしっ!っと肩を掴まれ、気怠そうに振り返ってみた理樹に、恭介はにやりと笑う。

--お楽しみは…これからだ。

…このセリフが、例えば、バトル漫画の相手を追いつめているシーンに発せられたものならよかった。熱いセリフだと理樹は思った。

…恭介って病み上がりじゃなかったっけ…?と、当然の疑問を頭に浮かべながらも、もう半ば諦めたように理樹は引きずられていった。

「…で、今度は何をするのさ」
「決まってるだろ。修学旅行の夜と言ったらアレしかない。真人、謙吾、ちょっと布団をこっちに動かしてくれ」
おうわかった、と二人の男は布団をずらしていく。頭の方が一カ所に固まるように。

「何となくわかるけどさ…。ねぇ、眠くなったら途中で寝ていいかな?」
「ダメ」
「ええー」

「いいじゃないか理樹。俺は、ずっとこの時間を楽しみにしていたんだぞ」
「謙吾まで…。謙吾も疲れてるんでしょ?」
風呂に入ったことで髪を下ろしている謙吾に、理樹は同意を求めるように問いかける。

「ああ。だがな、理樹。これぐらい、気合いと根性とテンションで乗り切ってくれなきゃ困るぞ」
「どうして修学旅行にそんなものが必要なのさ…。ああっ! まだ電気消さないでよっ!」
「あ、悪ぃ」
「何も見えないよ…。あぁこれはもう、寝るしかないよね」
「まぁ待て。」
懐中電灯が照らされる。

「…さてさて、第1回、ここでしか語れないよ秘密の恋、リトルバスターズ大暴露大会〜!はい拍手〜!」
「イィィーーヤッホォォーゥゥッッ!」
「キタキタァーーーーーッ!」
「………」

「こら、寝たふりするな」
「そりゃしたくもなるよ…」
「なんで。燃えるじゃないか!」
「てっきり怖い話とかで済ませるかと思ったのに、なんで最初っからそれなのさ…」
「だってお前、もう本気で寝そうな雰囲気だっただろ。なら、最初から飛ばしていかないとな」
と、子供っぽく笑う恭介。

裏目に出た…。一番スルーしたかった話題が自分のせいで最初に来るとは…。理樹は後悔した。


…筋肉っ! …筋肉っ!…


「…で、理樹は誰が好きなんだ?」
「ちょっと待ってよっ!なんで僕から!?」
暗くした部屋の中、懐中電灯の光に照らされる親友の顔に向かって、当然の疑問を口にする。

「別にいいじゃねえか。最初に喋っちまった方が楽だぜ」
「…せめて2番目とかにしてよ…。ほ、ほら、テンション高い謙吾とかっ!どう!?」
正面にいる恭介から目をずらし、その隣にいる謙吾に話を振る。

「…そうだなぁ…」
謙吾は目を閉じて少し考える素振りを見せ…

「…今はいないな」
「ええっ!? いないなんてアリなの!?」

「…おい理樹、もう少し静かにしろっ…」
「あ…う、うん。ごめん、真人」
意外に自分が声を張り上げていたことに気づき、理樹は驚いた。
とっとと寝るはずのつもりが、いつのまにか自分が一番興奮していた。


…ふっ!…ふっ!…筋肉っ!…


「リトルバスターズの子達なんかどうなんだよ、理樹」
「…ええっ!? そ、そんなこと急に言われても、わかんないよ…」
「何言ってやがるんだ。みんないい子じゃないか。(…筋肉っ!)あんなのに囲まれておいて(筋肉っ!)好きな子の一人や二人居ないんじゃ(筋肉っ!)、男としてありえないぜ」
「…っ! (筋肉っ!)だ、だったら恭介だって(筋肉っ!)同じことじゃないか。(筋肉っ!)恭介はどうなのさ?(筋肉っ!)」


…ほっ!…ほっ!…ふっ!…


「…俺は、いるぜ…?」
「えええっ! ほ、本当に!? 誰なの!?」
「ほほう…そいつは興味あるな…。まずは、恭介からになったか」
「ああ。この際仕方がないな。俺から言ってやるよ。…俺が好きなのは…」


…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!!


「…筋肉だ」


「えええええええっ!?」
「うわ、マジかよ!?」
「ああ。今まで黙ってたんだがな」


…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!!


「そうか…筋肉さんか」
「ああ、筋肉だ。どうした理樹、意外だったか」
「…え。う、うん。…少しね」
「そうか。じゃ、次は…」


…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!!


「(え…。でも、待って。筋肉…って、何?)」


…筋肉っ!…筋肉っ!…筋…


「(いや…そうか。筋肉はみんなに愛されるものなんだ)」


…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!…筋肉っ!!筋肉っ!


「(…い、いやいやいや。わけわかんないよっ?!…え…で、でも、恭介は筋肉が好きだって…)」


筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉


「(だから、恭介は筋肉で、筋肉は筋肉だから…)」


筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉


「(ええっと、そうか、全部筋肉なんだ…)」


筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉


「(…え? 筋肉…?)」
リトルバスターズの仲間が全員マッチョになっている。そんなシーンが理樹の頭の中をよぎった。


筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉nnnnnnnn


「う、うあああああああああああああああっ!??」

バサッ!


……………………。

「…え?…」
理樹が目覚めると、もうそこは自分の部屋だった。

「…そ、そうかぁ。夢、だったんだ…。よかったぁ…」
胸に手をあてホッとした表情で、理樹は周りを見渡す。もう夕方だった。

「…ふっ! …ふっ! …おう! やっと起きたか!」
筋トレを中断した真人が、汗だくで理樹に話しかけてきた。
…理樹は嫌な予感がした。

「…真人?」
「ん、どうした?理樹。筋肉さんが気になるのか?」
「…ずっと筋トレやってたの?」
「ああ、もちろんだぜ。何だかんだやってて昨日はサボっちまったからな。…って、どうした理樹?気分悪そうだぞ?」
「…い、いや。何でもないよ…。ちょっと、変な夢見ちゃったかも」
こいつのせいか…。理樹は憂鬱な気分になった。

「おっと、そうだったか。いい夢見れるように、さっきはわざとお前の近くで筋トレやってたんだ。筋肉さんの子守歌さ」
「だああああああああああああああっ!!」
ズドンッ!
男らしく笑う真人のあごに、理樹の拳がヒットした。

「い、いってぇっな!! 何しやがんだ!」
尻餅をつきながら、反論する。

「もう知らないよ真人なんか! ずっと一人で筋トレやってればいいんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ理樹! 何を怒ってるんだ!?」

「ふんだ…。あ、鈴。もうご飯の時間?」
理樹がスタスタとドアを開けて部屋から出て行こうとすると、ちょうどそこで鈴とはち合わせた。

「うん。お前らがこないからちょうど呼びにいこうかと思ってた」
「ああ、ごめんごめん、今いくよ」
「…あの馬鹿は何やってるんだ?」
「あーほっといていいよ」

理樹ぃぃぃぃぃぃぃい…!
鈴は部屋の中で叫んでいる真人を一瞥した後、理樹と一緒に去っていた。


あの後は確かに暴露大会が行われたのだが、理樹はさっきの変な夢のこともあってか、結局その内容はよく覚えていなかった。

覚えているのは、あれですっかり目が覚めてしまったことと、その後の怖い話やら女性陣は自分たちの誰が好きなのかという変な話やらに散々付き合わされたということだけだった。

リトルバスターズの女性陣の方も随分と遅くまで何かを話し合っていたようで、葉留佳やクドなんかは、朝見た限りでは相当お疲れのようだった。

廊下を歩いて食堂に向かってる途中、鈴は目を細め、一つ溜息を吐いた。
「…まだ、くたくただ」
「あ、やっぱり鈴も?」

「うん、くるがやとはるかに夜ずっと付き合わされた。理樹もそうなのか?」
「僕もまぁ…みんなとずっと話してたからね。帰ってきてからさっき少し寝たけど、なんか余計疲れた気がするよ…」
「ん、何かあったのか?」
「うん、ちょっと変な夢をね。
言った後、理樹は少し後悔する。あれは忘れるべきだ。抹消したいイメージだった。

「そうか」
鈴はさほど興味ないかのように、すたすたと理樹の前を歩いていく。

「ああ、そういえばな」
鈴は何か思い出したように口を開く。

「明日、あたしら全員職員室に呼び出されるらしいぞ」
「…ああ、うん。ちょっとは覚悟してたんだけど、やっぱりそうなんだね…」
「うん。さっき寮長にも怒られた」
「あはは、じゃ僕らも怒られるのかな」
「でももんぺち10個を約束したら、許してくれた」
「ええーっ!?」
いいのかなぁ…と、これから怒られる身ながらも何となく納得いかない理樹は、ふとした疑問を思いついた。

「そういえば恭介は?」
「さっき風紀いいんちょーに連れてかれた」
「ああ、やっぱり…」
主犯として見られやすい彼は、きっと自分たちより重い責任を負わされると理樹は思っていたのだ。
今頃彼一人できつ〜いお説教を受けているのだろうか…。

「多分あたしらも何か言われるぞ」
「しょうがないよ…。ちゃんと聞かなきゃね」
ちりん、と音を鳴らしながら、鈴は何でもないことのように頷いた。

理樹も、怒られることよりもまず、これからのリトルバスターズの活動に何か支障が出ないか、そちらの方が心配だった。

「(怒られ慣れる、っていうのも、どうなんだろうなぁ人として…)」
そんな自分達に少々複雑な気持ちを抱きつつも、理樹は笑ってみせた。

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