ある朝

 

    ある朝、自分が起きたらセミが鳴いていた。

住民が誰も起きていないころだから、とても珍しく思った。

 自分はそれをとても美しく思った。

 それから自分は、窓辺にたたずみ、壁にもたれながら、なんとなくすずしげ気持で聞いていた。

 聞くところによると、セミは羽化してから約一週間で死ぬという。

 セミは死ぬことがわかっている。そしてそれまでの間に数多く鳴いておく。

 そう思うと自分には、セミの鳴き声、み〜ん、みん、みん、という一小節にも、ちゃんと意味が込められている気がした。

 と、そのとき、今まで中心的に鳴いていた一匹のセミが、最後のほうをどんどん小さくして、鳴き終えてしまった。

 その直後、セミの足が何かから離れる音がした。

 それ以後、セミの鳴き声は一つ無くなった。

 と、すると、外のどこかの道路で軽トラックのエンジンのかかる音がした。

 自分は、うすい乳白色から、じょじょに水色になっていく空を見つけた。

 雀が鳴いている。

 酔っぱらいの憮然としたくしゃみがわかる。

 自分はまだ遠くにセミの鳴き声を聞いていた。

 夏の暑さや、情景と、セミはどうやっても切り離せぬものだ。

 いつでもそこにあったからだ。

 それがもうこんなにも遠く、珍しい。

 自分はなんだか落ち込んで、寝床へと入った。

                                     

―ある朝―

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