翌日の昼休み、僕はとある教室の前にやってきていた。
 まず、手がかりがほしい。まだ僕にはわからないことが多すぎる。
 鈴はこの前進路の件について、自分は進学でも就職でもどっちでもいいと言っていた。興味すらも抱いていない様子だった。
 なのにその選択を誰にも強制されたくないとは、ちょっと言い分が理論的におかしい。
 恭介の大学への執着と無関心のギャップのことも、まだよくわからない。そこにちょっとの予想はできこそすれ、その壁を突き崩すための鍵を僕は持っていない。そのための武器が圧倒的に足りてない。
 だが直接それを本人たちに聞きに行ったとして、あの二人が親切にそれに答えてくれるはずがない。
 ならば、なにか別のところから手がかりを探さねば。
 そう思ってまず僕が思い当たったのがこの人だった。行き詰まった時や、心が疲れてしまった時には、よく自然とこの地に足を運んでしまうものだが……。

「だからっ、あれほどこっちの教室には来るなって言ったでしょうに……っ!」

 笹瀬川さんが顔を真っ赤にして、肩をいからせながらこっちにやってくる。
 僕はとぼけたような顔をして、それを出迎えた。
 
「えー……それじゃ僕から笹瀬川さんに会う手段ってどうなるの?」
「お手紙とか、メールとか、お電話とか、色々あるでしょうがっ! それを使ってどこか適当なところに呼び出しなさい! 変に勘ぐられるじゃないですの!」

 人差し指を僕の胸に突き出して、大声で説教してくる。
 ちなみに笹瀬川さんがそんな怒鳴るように話すもんだから、当然のごとく教室の後ろの方からは取り巻きたちの心配そうな視線が向けられていた。
 うう、これじゃこっちまで恥ずかしくなる……。周りの男子からの視線も当然のごとく痛い。

「でも、笹瀬川さんってあまり携帯使わない人だし……メールとか、ほとんどすぐに返したことないじゃん。いつも一日経った後とかに返信するし」

 ちなみに、この前笹瀬川さんは僕の出したメールを三日経ってから返してきたことがあった。内容は僕からの軽いデートの申し入れだったのだが、笹瀬川さんの返事は、週末を過ぎて月曜になってからの「週末ならいいですよ」だった。だったらメールを早く見てくれと言いたい。無視されたと勘違いしてへこんでしまった僕がいた。

「私はいつも部活と勉強で忙しいんですわっ! そんなコギャルみたいにパカパカ携帯をいじったりはしません!」
「えー……うんと、実はさっきの休み時間にもメールを送ったんだけど……」
「えっ」

 笹瀬川さんは慌ててポケットから携帯を取りだし、フリップを開けた。おぼつかない手つきでボタンを押していき、とたん顔を真っ赤にして俯いた。
 切れ長の目がしょんぼりと垂れ下がり、前髪に隠れてしまった。口がもぞもぞと動いている。てか、コギャルって何。

「見て、なかったんだね……」
「うう」
「今度からこうやって直接会いに来るよ。お手紙とかメールで呼び出すの、ちょっと恥ずかしいと思ってたし……」

 僕は、自分の頬に熱が溜まっていくのを感じて、手を押し当てた。
 メールで呼び出すにしても、どうにもその文面が「告白したいので来て下さい」みたいになってしまうから実際打っててかなり恥ずかしかった。お手紙なんかそのまんまラブレターだ。
 僕から電話で呼び出されて、そそくさと教室から出ていく笹瀬川さんの姿もあまり想像したくない光景だった。

「そ、そうですわね……実際にこんなメール見ていたら、授業中全然集中できなかったと思いますし……」
「送った僕なんかまさにそうだったんだけどね……」

 笹瀬川さんは携帯を閉じ、きょろきょろと周囲を確認した後、慌てて両手で僕を教室の外へ押し出した。

「と、とにかくここは視線が痛すぎますわっ……! はやくどこかに行きましょう!」
「う、うん……」

 あうあうとお互いもつれ合うようにして、僕と笹瀬川さんは廊下に飛び出していった。
 こうやって外に二人で慌てて消えていく方が恥ずかしいと思うのだけれど……取りあえず、これが最善の策だったように思える。この場所じゃ恥ずかしすぎて、まともな話なんかできやしない。

 

 

 

 
 僕と笹瀬川さんは、青空が見える屋上にまでやってきた。小毬さんは、いなかった。
 
「それは、本当に私にも伝えてもいい話だったんですの……?」

 僕が事情を話すと、笹瀬川さんは途端に哀しそうに眉を下げ、そんなことを尋ねてきた。
 藍色の髪が、澄み切った秋の涼風にさらさらとなびく。

「……わからない。けれど、これは誰かに伝えなきゃ進まない話だと思ったから。それに今僕が語ったことは、そのほとんどが僕自身の想像にすぎないよ」

 僕は入り口の段差に腰掛け、隣にいる笹瀬川さんへと視線を向けていた。
 笹瀬川さんに話したのは、実際今までに僕の目の前で起こったことと、恐らく恭介が無理をして就職の道に進もうとしていること、そして鈴はそれを前々から知っていて、しかも受け入れる気がないということだ。
 笹瀬川さんは口に人差し指を添え、難しい顔で考え込む。

「棗さんの様子がおかしいとは私も前々から思っていましたけど……まさか、進路のことについて悩んでいるとは考えませんでしたわ。棗さんのことだから、『どうでもいい』とか言って適当に済ませてしまうのかと」
「鈴は本当にそんなことを言ってるよ。けれど、どうも心の内がそれだけじゃない気がするんだ。恭介に進学を勧められた時はすごい嫌がったし、でもまだ調査表は提出してないし……」
「ううん……」

 再び下を向いて考え込む。
 僕と鈴は、あれからまた少し先生に提出の猶予をもらえることになった。しかし今度ばかりは職員会議上の問題で期限を引き延ばすことは無理なんだそうだ。
 僕は、その期限までになにも決められなかったら、取りあえず国立文系を選択しておこうと思った。やる気なんてゼロだし、そんな資格なんて僕にはないけど、絶対の期限なのだから仕方ない。
 けれど鈴は、それでも頑なに調査表の提出を拒んでいる様子だった。僕が進路の相談に行ってもその会話を嫌がり、一人の時は不安そうに視線をきょろきょろと巡らせたり、窓の外をぼけーっと見つめたり、たまに頭を痛そうに手で押さえたりしていた。
 おまけに目の下には濃い隈ができてるほどで、体力的にも精神的にも限界がきているのは誰の目にしても明らかだった。
 鈴は、一体何に対してそんなに迷っているのだろう……。笹瀬川さんなら知っているのだろうか。

「私が聞いても、本人は『なんでもない』の一点張りですわ……後はとにかくやたらとそわそわしていて、まるでキメていた薬が切れてしまった危ない犯罪者のようでしたわ」
「あんた、そこまで言いますか……」
「本当にそう見えてしまうのだから仕方ありません。しかし……お兄さんとの口喧嘩がそれの全ての原因だとしても……さすがにちょっと不自然ですわね」
「そだね……」

 僕はゆっくりと頷いた。
 恭介に対する反発の感情であったり、単に喧嘩していることからくる後ろめたさがあるだけでは、きっと鈴も「ああ」はならない。
 きっと鈴の態度には、もっと隠された別の理由があるのだと僕は推測する。
 けれど、その肝心の中身の内容がさっぱりわからない。恭介の壁を打ち崩す手がかりになってくれると思うのだけど……。
 笹瀬川さんは首をすくめて、息をついた。

「申し訳ありませんが、これ以上は私にもわかりませんわ。私はお兄さんの方ともあまり親しくない人間ですし、棗さんとも気軽に進路先を教え合う仲じゃないですもの」
「そっか。そうだよね……」

 そういえば、この二人は親友だが、同時に犬猿の仲でもあったのだ。
 どうやら今回の件は不発に終わったようだ。僕も溜息をつく。鈴のことを別の視点で見られるこの人なら、なにか良い意見をくれると思ったのだけれど。
 しかし笹瀬川さんは、「ただ……」と少し迷うように視線を逸らして、躊躇いがちに続けた。

「これは、私が言っていいものかはわかりませんけど……」
「ごめん、言って」
「……っ、あなた……ほんっとにこういうことだけは図々しいですわね。乙女のプライバシーを覗こうと言うのですから、なにかそちらで対価を用意しようとか考えませんの?」

 笹瀬川さんが厳しい眼差しで僕を睨みつけてくる。
 し、しまった。そういう話題だったのだろうか。僕は謎を解くのに必死になりすぎていたみたいだ。え……でも、聞くのは鈴の方の秘密なんじゃ? けれど笹瀬川さんが対価を出せって……。

「うーん……じゃあ、週末になにかご飯を奢るよ。笹瀬川さんの好きなものをなんでも」
「……うっ、は、はいっ!? なんでそうなるんですの!? そっ、そういうことじゃありませんわよ、この馬鹿! あなたの握ってる秘密をなんか教えろってことですわよ!」
「あ、ああ――」

 顔を真っ赤っかにした笹瀬川さんに、ほっぺをぷにぷにと突っつかれる。
 な、なんだ、そういう意味だったのか。
 僕が得心がいったように掌を打つと、それが白々しい態度だと思われたのか、笹瀬川さんはぎろりと視線を鋭くして僕を睨んできた。もはや耳たぶまで真っ赤になっている。

「も、もういいですわ……っ! あなたの知ってる情報なんか知ったって何の役にも立ちませんものね! しょ、しょーがない……それで手を打ってあげましょう」
「そう……? それだったら助かるけど」

 俯きがちに答える笹瀬川さんを見て、僕の頬まで熱くなってきた。
 本当はこんなデートの約束をしている場合じゃないのに、どうして僕はこの人と一緒にいるとこんなに気が安らいでしまうんだろう。
 恭介に付けられた傷も、先行きが暗いことからくる真っ黒な不安も、風に流されて和らいでいく。癒されていく。
 鈴が一人であんなに苦しんでいるというのに。あんなに冷たく笑えるほどの過去が恭介にはあったのに。
 半紙に垂らしてしまった墨の一滴のように、けれど僕の心が完全に晴れやかになることはなかった。
 笹瀬川さんは、なにかを誤魔化すようにコホン、とわざとらしく咳払いをした。

「え、ええっと……こちらの秘密というのは、あの棗さんのことですわ。神北さんと私と棗さんの三人で、話していた時のことですの」

 やっぱり秘密は鈴のことだったんじゃないか。卑怯だ――と僕が零そうとした時、笹瀬川さんの目にふと真剣な色が宿った。

「棗さんが、あのお兄さんとずっと話せていない――ということも、もしかしたら今の棗さんをやつれさせている大きな原因かもしれませんわ。棗さん……お兄さんのことが大好きって言ってましたから」
「……へ?」

 僕は、思わず素っ頓狂な声を上げていた。鈴が……恭介のことを、大好きと「言った」だって? 笹瀬川さんたちに、直接?

「本当のことですわよ。深夜でしたから、寝ぼけていたせいだったのかもしれませんけど。でも、はっきりと棗さんは、私たちにそう言いましたわ。……ええっと、『あたしはやっぱ理樹よりきょーすけの方が好きだな。あのかっこよさは、やばい』とか……」
「……え、ええぇぇ……」

 恥ずかしそうに鈴のセリフを暗誦する笹瀬川さんを見て、僕はまたもや変な声を上げてしまった。
 勝手に比較対象に挙げられていることもそうだったが、まるでそうでなくても、聞いているこっちが恥ずかしくなるほどのストレートな告白だった。
 鈴がそこまで恭介への好意を自覚していることも驚きだったが、それ以上に僕は、ここで生まれてしまった新たな疑問の渦に、脳のコイルが焼き切れてしまいそうになった。
 ど、どういうことなんだ、一体これは……。
 
「そ、そこまで恭介のことが好きなら、なんで鈴は恭介の気持ちを真正面から受け止めてやれなかったんだろう……」

 笹瀬川さんは目を伏せて答えた。

「わかりませんわ。けれど私が思うに……きっと棗さんは、お兄さんの行く末の方もとても大事だったのだと思います。まさか自分を犠牲にして妹を助ける――なんて、きっとその本人からしてみたら、到底我慢できない事実だったのかもしれませんわ」
「そ、そうか……なるほど」

 僕は息をついて納得した。
 考えてみれば、なんてことのない事実だった。
 むしろそれこそが、一番あり得そうな真実だったんだ。
 鈴は、恭介が自身を犠牲にすることを取りやめ、本当の幸せについて考えてくれることを心から願っているのだ。
 だからあんなふうに無理やり話を進められて怒ったのだし、恭介への当てつけみたいにわざと進路を決めたがらないのだ。
 早く自分の想いに気づいてくれと。そんなふうな愛を押しつけられたって、自分はまったく嬉しくないのだと。無言のままに抵抗のメッセージを送り続けてきたのだ。
 鈴の想いが補完されたとき、僕の胸は、ふわっ……と温かい気持ちで包まれるようだった。
 なんて素直じゃないんだ、鈴。
 そんなんじゃ相手に伝わるはずもない。恭介が気づいてくれるはずもない。
 けれど。

「けれど、これで……もしかしたらどうにかなってくれるかもしれない」

 鈴にはまだ、僕がいるよ。
 大丈夫だよ、鈴。この僕がなんとかするから。
 恭介の壁を壊す鍵は得られた。あとはあるべき場所にそれを差し込むだけ。
 ならば次は――と、僕が立ち上がろうとした時。
 ふと笹瀬川さんが、こちらを無感情な目で眺めていることに気づいた。

「ちょっと待ちなさい、直枝理樹」
「え……?」

 この人が僕を直枝理樹と呼ぶときは――、果たしてどういう時だっただろうか。

「あなたはそれで……その棗さんたちの問題にこれから首を突っこんで、どうなさるおつもりですの? あなたはそれで、一体なにを得るというんですの?」

 体が、固まった。
 今まで考えてもみなかった問いかけに、僕の頭は一瞬、時を刻むのを止めたのだった。
 笹瀬川さんは淡々と質問を続けていく。

「たとえば、あなたが無闇に場を荒らしたせいで、傷つかなくてよかったものが傷ついてしまうかもしれません。知られてほしくないことが……知られなくてもいいことが、こんなふうに周りへと知れ渡ってしまうかもしれません。それでもあなたはそのことに挑戦し続けるんですの?」

 したたかなターコイズブルーの瞳は、僕の器量をここで確かめるかのようだった。
 「こんなふうに周りに知れ渡って」というのは恐らく、今し方の僕らの行動を皮肉ってのことだ。
 真実を知って傷つくのは、きっと僕だけじゃない。
 この笹瀬川さんだって、こうやって僕と情報を提供し合っただけで共犯者となった。僕が笹瀬川さんを共犯者に仕立て上げてしまったんだ。
 ならば僕は、最後の結末の果てに、ちゃんと全ての責任を持てるのか――?

「私は正直、この件にはこれ以上の希望はないと思いますわ。あの二人の望みはきっと、平行線のままで終わってしまいます。ならば、知らなくてもいいことを知らってしまって、それで深く傷ついて、自分のしでかしてしまったことを強く後悔するよりは、なにも知らないままで、またすぐ仲直りしやすいようにするべきだと思いますの。……私はもう、これ以上知りたくありませんし、なにかの秘密を話したくもありません……」

 笹瀬川さんは口を閉じて、どこか遠くを眺めるように目をすっと細めた。
 その目にはどこか痛々しげで、それでいて少し寂しげな、様々な感情が宿っている気がした。
 傷つけたくない。
 傷つきたくない。
 なるほど、先ほどの対価とは……そういう意味だったのか。
 そしてもう一度、笹瀬川さんは口を開く。

「しかし、わからないのはあなた自身の狙いです、直枝理樹。あなたはどうして……棗さんたちの件をそんなに解決したがってるんですの? そこに、どんな理由をお持ちになってるんですの?」

 笹瀬川さんはまるで、ただの好奇心だけだったら本気で怒るから、というような鋭さを目に宿して、ひそやかに語りかける。
 僕は宙に浮かしていた腰をもう一度降ろして、そっと空を見上げた。
 僕は、あの恭介をもう一度進学という道に復帰させるために、この謎を解こうとしてるのか……?
 いや、違う。それは表面的な理由にすぎない。恭介にだってちゃんと選択の自由はあるんだ。他者である僕がここまで熱くなる問題でもないはず。だったら……。
 ああ、そうか。
 僕はなんとなく、僕も彼らと同じ当事者だと思っていたのだ。
 彼らの姿に、もう一つの自分の姿を重ねていた。
 それを解き明かすことで――。

「僕は……いや、僕も、まだ進路を決めてないんだ」

 笹瀬川さんがこちらを見て、少し驚いたように目を見開いた。

「就職とか、進学とか……そういうものに今僕らが立ち向かわなきゃいけないのはわかってる。それは僕らの責任であり、義務でもあると思う。けれど……僕はそういうのにあんまり興味を持てないんだ。そんなのはどっちでもいいって思ってるし、やっぱりまだまだ、僕はみんなとたくさん遊んでいたいんだよ。そんな……みんなと遊べなくなってしまった後のことなんて、今はあまり考えたくないんだ」

 ただの怠惰にすぎないことは、僕が一番わかっている。
 だからこそ。

「僕は、あの二人のことが放っておけなかった。あの二人がそのままズルズルとよくない方向に進んでいって……誰かがどこかで望みを諦めなければならないような事態になったら、僕はきっと……僕を見失う。きっと僕は、あの二人に自らの姿を投影していたんだと思う。だからあの二人が、きちんと望みを果たせることができれば……僕にもきっと、希望が見えてくる……。そう思うんだ」

 言い終えて、僕は目を細める。
 それは、とても自分勝手な望みだった。
 相手の気持ちを視野に入れず、ただ自分の目的のために場を引っかき回す。
 僕は恐らく、二人のことをたくさん傷つけるだろう。
 笹瀬川さんのことも間違いなく傷つけるし、何より僕自身のことをもっと一番傷つけるだろう。
 ああ、僕はなんて自分勝手な人間だ。

「だから、逃げないよ。もし傷つけたら、治るまでずっと傍にいるよ。自分勝手をやった分、みんなの自分勝手を聞くよ。でもそれでもいいから……僕は、みんなを助けたい」

 笹瀬川さんの方を見て、僕は正直に答えた。
 これこそが僕の狙いだ。
 言い訳はしない。
 驕りもしない。
 ただ僕は僕の願いのために、みんなを傷つけて、治すよ。
 みんなの力になるよ。

「……そう。だったら、それでもいいと思いますわ」

 笹瀬川さんは、目を細めて優しく笑った。
 
「あなたがそうだと言うのなら……誰かそれを支えてあげる人が必要ですわね」

 置かれた僕の手に、もう一つの手が重ねられる。
 ああ……これだからこの人は優しいというんだ。
 これ以上優しくて温もりのある人を、僕は知らないんだ。
 もしかして、最初からこのつもりだったのか。

「この私が、最後まであなたの味方でいますわ」

 これ以上の励ましの言葉を、僕は知らない。

 それじゃあ、行ってくるよ。

 

 

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