棗鈴19歳。
真人19歳。
「あ〜……」
棗鈴の部屋。
陽が暖かげにベッドに寝ている彼女に当たっている。
気持ちよさそうに目を細くしている彼女は、パジャマではなく私服を着ているところから、彼の到来を待っていたように見える。
「おーっす。来たぞー」
「いらっしゃーい」
井ノ原真人が入って来た。
伸びきった声と顔で出迎える棗鈴。
真人は一瞬たじろぐが、何事もなかったかのように、床に座る。
「親が果物持っていけって言ったから、母さんに渡しておいたぜ。後で食えよ」
「ん〜……」
「って、聞いてんのか?」
「うっさいわ。聞いとるわ。ふわぁ〜あ……」
「猫かよてめぇは」
「気持ちよくてな……漫画でも読もう」
「彼氏が来て漫画かよてめぇは」
「真人も好きなの取っていいぞ」
「枕元にはお菓子……テーブルにはテレビゲーム、足元、横側には漫画の山か。ここの部屋、ベッドに陣取れば何でもできるようになってやがるな」
「見事な配置だと言ってもらいたいな」
「何ぬくぬくとしてんだてめぇは!」
「気持ちいいじゃにゃいか」
「にゃ、ってなお前……」
「にゅう〜……ああ、幸せ」
鈴はベッドに仰向けになって漫画を読み出した。
真人はベッドの近くまで行って、窓をガラガラと開けた。
「いい天気じゃねぇか? 外行こうぜ。自転車にでも乗って、遠くまで行かねぇ?」
「寒い! 閉めろ!」
「何ぃ! せっかくこうやって空気入れかえてやろうってのに!」
「あたしの楽園を崩壊させにやって来たかこの邪魔者が!」
「おまえなぁ……」
閉めてやると、またふわふわと漂うような、雲のような、日だまりに当たっている猫のような満足げな表情になって静かになった。
「ありがとう……」
「いや、礼なんて言われたくねーし……」
「暇ならテレビつけてれば」
「別にいいけどよ……」
真人は座って、枕元のお菓子を一個食べる。
鈴の片手がそこに伸びて、一個一個、よどみのない一定間隔でお菓子を取っていく。
真人はじっとその様子を眺めている。
「あのさぁ……」
「ん〜?」
「漫画、おもしれぇ?」
「ん〜まぁな……」
少女漫画である。
でも楽しそうに読んでいる気がしない。
なんだか目元が眠たげで、どこか取り憑かれているようにも見える。
「あのよ」
「ん」
「何かさ、お前大学行ってぐうたらするようになったな」
「よく言ったなそのセリフ……」
「あ?」
「あたしは大学で素晴らしい思想を学んできた」
来た。と真人は思った。
このぐうたらな人間を作り出したのがそもそも何であるか、これで解明されるのである。
「あたしは、これから『つれづれなるがまま』に生きることにした」
「あ?」
「つれづれなるがまま……だ。意味は? 知らないだろ、どうせおまえじゃ……」
「つれづれだろ? えっと……」
腕を組む。
「そうだ。確か連れションのことだったはずだ」
「お前、頭に何か湧いてるんじゃないのか?」
「え、違うのかよ」
「違う……どーしてあたしが連れションをライフスタイルにしているんだ?」
「それもそうだな。……あー、じゃ、ちょっと待てよ……そうだ。つれづれっていうのは、ツレとツレだから、やっぱり、何か一緒にやるとか、そういう意味だったはずだ……」
「ぶー」
「いちいちむかつく野郎だなオイ!」
真人は半分寝ているような鈴に苛々してきた。
「辞書で調べてみろ……ほら」
教科書などと一緒くたにされたゴミの山のようなところから大きな辞書を渡される。
真人がそこを引くと、つれづれ:退屈なさま、しんみりと寂しいさま。などと書いてあった。
「あ? こういう意味だったっけ?」
「つまりあたしは無為自然に生きているということだ……」
「無為自然……あーようするに、ただ何となく生きてるんだろ? てめぇ、難しい言葉使ってうまく煙に巻こうったってそうはいかねぇぞ。はい棗さん、つれづれなるがまま、を『何となく』に変えて喋ってください。さんはい!」
「あたしは何となく生きています……ううっ!」
鈴は飛び起きる。
「言葉の壁が剥がれたな」
「何てこと言うんじゃ! ああ……そうさ……あたしは、これがいいんじゃ……無為。あたしは、この思想を考えついた人間は名誉地球人賞をやってもいいと思う」
「今度も面倒くせぇ言葉使って逃れようとしているな……」
「あたしは無為だ。無為自然にこうして陽の光を浴びて眠るのだ……羽ばたけ、あたしの夢……ぐー」
「外、行こうぜ」
「ぐーすぴー」
「おい!」
「にゃむにゃむ」
「お〜い……鈴さ〜ん……起きねぇとほっぺつねるぞぉ〜……って、アレ?」
鈴の表情をずっと見ていた真人はあることに気付く。
すやすやと眠る彼女の顔に何か異変が起きている。
「なぁ鈴。おまえ太ったんじゃねぇ?」
目が大きく開かれ、飛び上がった彼女と真人は頭をぶつける。
「あいてっ!」
「ふ、ふ――ふざけるなっ! 一体何を根拠に!」
「いやだって、こう……何か、頬がふっくらと」
「ひっ……やめろ見るな!」
毛布を被って逃げてしまう。
「いや〜……こうして部屋の有り様見ていると、いろいろと人間をこうする要素に満ちあふれているな。確か前来たときもお菓子食ってたよな」
「ぎくり」
「おまえ、運動ちゃんとしてんのか?」
しているはずがない、と真人は思った。
今日こんな日なのに出歩くことがないんだから。
「い、いやあ! それがだな、」
鈴は布団を払いのけてベッドの上に正座した。
「大学って、高校の頃より体育の時間が少ないんだ!」
「ほお。それで?」
「いや……それだけなんだが」
「サークルとか部活とかやってねぇの?」
「何だと! あんな恐ろしい所へあたしを入れようというか! おいそこ、座れ!」
「はあ」
「あそこに何人知らない女子と男子がいると思ってるんだ」
「オレが知るか」
「ああ、そうだ。おまえは知らないな。あんなとこ入るんだったら死んだ方がマシじゃ」
「えっと、鈴さんよ」
「何じゃ馬鹿」
「友達いねぇの?」
鈴は顔をそむけた。
「いねぇんだな?」
「……いる」
「ほお」
「リトルバスターズのみんな」
「……それ、他の大学じゃねぇか」
「だってだって! あたしには友達作りなんか無理じゃ! だって、男はチャラいか怖いかどっちかだし、女だって意味わからんやつ多いし! あ〜! 理樹とこまりちゃんいる大学行きたかったぁぁ――! うわぁ――っ!」
「ここで駄々こね始めるとか正気かこいつ!?」
「うわぁ――――ん! うわ――ぶっ!」
「ま、泣くのはもうそれまで。後オレが泣かしてるみてぇに見えるから……な」
布団を被せてしまうと泣き声は収まった。
数秒たってから、いそいそと布団から出てくる鈴。
またもや頬を膨らませて、ベッドに寝っ転がってしまう。
「まぁ……あれだな」
「ああ」
「つれづれなるがままに生きていたら、こう、お腹もつれづれなるがままになるっちゅーことだな。うん」
「意味分かんねーよっ! つか腹見せろコラ!」
「わっ! やめろ!」
必死に服をおさえる。
「何すんじゃぼけ! 変態! スケベ!」
「いいから見せろ! 現実を直視するんだ鈴!」
「いやっ! やめろぼけ! 犯される――!」
「うるせぇ! 見せるんだ、おまえが犯した間違いの跡をなぁ――っ!」
ぷるんっ。
お腹の、ふくらんだ脂肪の可愛い弧が顕わになった。
「ひぃぃ――っ!」
「どうだ、見たかぶへぇ!」
「ぶっ殺す!」
同時にハイキックがヒットして真人が倒れる。
「もういやじゃ……こんな彼氏……」
鈴はお腹を隠すようにして真人に背を向けてしまう。
「あのな……そうやって色々のんべんと生きてたって、時計の針は進んでくんだぞ? 分かってんのか?」
「分かっとるわ! ぐすっ……だって体育の時間数が少ないんじゃ……ストレスが溜まるし、おかげでこうしてお菓子が増えて……」
「ったく、どうしてオレはこんな彼女が好きになったかねぇ」
真人が溜息をついた時だった。
鈴ががばりと飛び起きて、真人の目を見つめた。
「鈴?」
「真人……本気、か?」
「あ?」
「こんなお腹した彼女はいやか?」
「オイオイ、そんなこと言って――」
「よし決めた! あたしもうお菓子やめるし運動する! おい真人! これからブックオフに漫画全部売りに行くぞ! 付き合え!」
「は? え、今から? どんだけあると思ってんだよ! これ全部!?」
「いいんだ! あたしはもう、無為とか、つれづれとかそういうのとは縁を切る! 女の敵だ! もっとスリムになるんじゃ! さぁ、袋を用意してガバガバ詰めてけーっ!」
2
「あーっ、空気が綺麗だな。なぁ、そう思わないか真人?」
「思うけどさ……」
「? 何じゃ?」
「おまえ、正気か?」
「あたしのどこが変だと言うんだ? 失礼なやつだな」
真人は周りを見渡した。
そこは何を隠そう、日本一の霊峰、富士山の山腹である。
「よりによってだな……ここを選ぶとは……さすが鈴さんと言うべきか」
「お前も賛同したじゃないか」
「あの時は冗談かと思ったんだよ! ったく、後で手頃なハイキングコースとかに変えるつもりだったのに、恭介の野郎、鈴に予約の仕方教えやがって」
「そうぶうたれるな。こんな経験、滅多にできないぞ」
「まあそうだけどさ」
鈴は走って山道を上っていった。
真人は重い荷物を持って後から続く。
「あーっ、幸せ!」
「鈴、運動する気概が戻ってきやがったな」
真人は嬉しげ。
「ああ。何だか、ずっと忘れてた気分がまたあたしの中に湧いてきたようだぞ」
「オレもいっちょ本気でスポーツやるか。バイトばっかりで、こういうのには飢えてたからなあ」
「あっ! 真人! 鳥だ! あんな高いところ飛ぶんだなぁ……」
「怪我すんなよー」
鈴はひょいひょいと軽い身のこなしで上へと登っていく。
鈴は運動をするにあたって、何か目標意識がないとすぐ怠けてしまうということに気がついた。
それから、二ヶ月後にハイキングに行こうという話が二人の間で決まって、鈴はそれに向けて体力づくりに励んでいた。それがこうして実行に移される段になって、鈴はかつての運動能力を完全に取り戻しつつあった。
「よっこらせっと……」
真人が一段一段しっかりと登っていくのに反して、鈴はひょいひょい身軽そうに登っていく。
だが、
「真人ぉ……死にそうだ……」
「これ飲んどけ。あと休め。絶対にこれ以上進もうとすんじゃねぇぞ」
「高山病か……これが、噂の」
「お前みたいに下の層ではしゃぎがちなやつが陥る病気だ」
「こんなとき一人だったら死んでたな……」
鈴はゼリーの飲み物を飲んで、顔をだらりと下げていた。
「他の連中も来ればよかったのにな」
「こまりちゃんにも、みんなにも声かけたけど、誰一人として来たがらなかった……」
「まあ、登山はくたびれるからなぁ」
「ふん。あたしはこんなのには負けんぞ。絶対に山頂を攻略するんじゃ」
「おう」
「お前は辛くないのか?」
「鍛え方が違うからな」
真人は笑うが、
「聞いたあたしが馬鹿だった……」
「なんでオレが馬鹿みたいに言われてるの?」
「せめて理樹がいればなぁ……おぶってもらうのに」
「オレだっておぶってやることができるんだが」
真人は少しむっとした言い方になる。
鈴は跳ね起きた。
「真人はなんか、だめだ」
「何でだよ……」
「なんちゅーか、おまえにはあたしが頑張ってるとこ見せないと、恥ずかしい」
「あっそ。じゃ、頑張れよ」
置いていこうとすると、慌てて駆け寄ってくる。
「真人! ふざけんな!」
「ほらよ」
真人は振り返りざまに手を差し出した。
「手繋いで一緒に登りゃあいいだろ? オレ、別にこれで全然面白くやってるぜ。鈴と二人で来るのも初めてだしなぁ」
鈴はおずおずと手を重ねる。
「よしっ。掴まれ!」
岩場を乗り越え、鈴は真人に引っ張られる。
「うし。こうやって行こうぜ。苦しかったら言えよ」
「なめるな。あたしはまだまだやれるぞ」
手を振りほどいて、先へ駆けだして行ってしまう。
真人は朗らかに笑った。
すぐさま岩の上で寝っ転がってる鈴を見たからだった。
鈴はだいぶ進んでくると次第に元気になった。
「うすい空気にもだいぶ慣れたみたいだなあ」
「見てくれ! あれを! 雲があんなに下に!」
「はいはい」
だいぶ進んでくると山道は雲を突き抜ける。
午後の優しい光に色づけされた、黄金の雲が冷たく漂っている。
「綺麗だなぁ……」
「鈴。なんか食ってくか?」
「いい。もちっと進まないと、日が暮れる」
「そうだなあ」
真人たちはどんどん登っていく。
喧噪の音は遙か下に追いやられ、風の音しかしない山道になってきている。真人と鈴は手を繋いで、ゆっくりと登っていく。たまに会話をしつつ、景色の雄大さに見とれながら。
「く、くたびれた……」
宿に着いたのは、六時だった。
五合目を出発したのが十一時だったから、七時間かけてここに辿り着いたことになる。
辿り着くなり畳に突っ伏す二人。
「ど、どうだ、真人……あたしはやった……全部、成し遂げた……」
「ああ。よくやったぜ……文句言い言いもな……だが、残念な発表があるんだ……」
「ひっ! 聞きたくないぼけ! 死んじゃえ!」
「実は、まだここは頂上じゃないんだ……」
鈴は精一杯耳を塞いでいたが、聞こえたらしく、ずんずん脱力していく。
富士山の頂上は、まだまだ続いていく山道の果てにある。
ひとまずは、ここで休息だ。
食事を取って、寝袋にくるまる二人。
じゃんけんをして、あっち向いてホイ、などをして、無邪気に遊びながら、二人はじょじょに睡魔に負けて眠りへと向かった。
朝は鈴によって起こされる。
「え? なんだ? 鈴? 何が起こった?」
「朝だ」
「は? オレの目が間違いじゃないといいんだが……どうも二時のように見えるんだが……」
「朝だ」
「いや、夜だろ」
「朝なんじゃ! 日の出を頂上で見るのだ!」
「嘘っ!?」
寒い中起こされて、真人と鈴は外の暗闇の中で並んで歯を磨く。
「凍え死にそうなんだが……」
「あたしは行くぞ。お前が何と言おうとも」
「ちょ、オレがいなかったら死んでたとか言ったくせに」
「うっさいわ! 過去にこだわるのは男らしくないぞ!」
「おまえのそのやる気、なんなんだよ……」
「……」
鈴はお腹をさわる。
今ではつるつるだ。ぷにぷにしているところは見られない。
でも、何かを成し遂げるためにここに来たのであって、それをなさないまま帰ってしまったら、また元に戻ってしまう気がする。
「あたし」
「あ?」
「やっぱ真人と行きたい」
「はいはい。オレもそうだよ。じゃ、ちょっくら顔洗ってくるぜ」
真人は去っていく。
鈴は微笑む。
少し安心する。
夜の敢行がその後に待っていた。
真っ暗な中、懐中電灯の光を頼りに進んでいく。その中で二人はじっとお互いの手を握っている。
「さむいし、死にそう……」
「目つむんなよ!」
富士山の山頂付近は夏でも氷点下近くなる。
さらに風も吹いていると、体感気温はますます下がる。
他の登山客が頑張っている隣で、休息しつつ、二人はゆっくりゆっくり登っていった。
そして、
「わぁ――っ! やった! あたし、ついにやったぞ!」
「うへぇ……あんなのが見れるとは……」
山頂についに登り詰め、それからしばらくして、日の出が真っ赤な輝きを伴って現われて来た。
鈴は杖を片手に、小学生のようにはしゃいでいる。後ろで真人は驚きと達成感の入り混じった顔で佇んでいる。
「鈴、写真」
「おう。きっちり綺麗に撮るんだぞ」
「あれ……暗いからおまえの顔が映らない! どうする! 鈴!」
「いいから早くしないと、日の出が!」
写真を撮ったが、やはり真人が言ったように日の出しか映っていなかった。
それから山頂で買ったスポーツドリンクとカップ麺を食して、二人で静かに会話した。日の出の輝きがじょじょに赤から黄色になっていくのを見ながら。
「真人、来てよかったな」
「おう」
「大変じゃなかった?」
真人は鈴の背中を小突いた。
それだけで、答えになっている。
「オレ、ぶっちゃけると、日の出より、お前と山みち歩いた方が楽しかったよ」
真人は笑っている。
鈴も微笑み返した。
「あたしも、よく考えたら、来る途中の方が楽しかった」
「だろ?」
「ねえ触ってみて」
お腹を指差すので、手で服の上から触ってみると、ほとんど余分な脂肪は感じられなかった。
「ふっふっふ……これで完璧だな」
鈴はベンチから下りると、女優のようなポーズを取った。
「ナイスバディ鈴……これにて完璧取り戻したぞ!」
「ぶわはははは!」
「な、何で笑うんじゃ!」
「だっておまえ、おかしくってよ」
「お、おまえのためじゃないか!」
「は? そうだったの?」
「な、何のためだったと思ってるんだこのぼけ――っ!」
「ぐはぁ!」
ハイキックが首にささる。
「オレはてっきり……運動の楽しみに目覚めてくれたものとばかり……」
「おまえと一緒にするな!」
「筋肉はいいもんだろう?」
「いや、いいとか聞かれても正直困る!」
「なーんて、冗談だよ」
真人は鈴とじゃれ合いながら立ち上がると、笑って鈴を抱き寄せた。
「べつにおまえはおまえでいいんだよ……ずーっと、好きだったんだかんな……」
くっつかれるのが嫌だったのか、鈴はすぐその腕から猫のように抜け出すと、腕の上から体重をかけて寄りかかった。
「ばーか……男くさい」
「おまえと少なくとも一緒に頑張れて、楽しかったけどな。オレは」
鈴はまたもムキになる。
「あ、あたしだって……でも、でも……ま、真人は阿呆じゃ! 何にも分かってない!」
鈴は顔が赤くなる。
そっぽを向いてしまう。
でも、下山する段になると、
「真人、下りるとき競争するぞ!」
「おい危ねぇって! 落ちるぞ!」
「わぁ!」
「だから言っただろうが!」
真人は引っ張り起こして、ぎゅっと手を握る。離さない。
「オレから少しでも離れてみろ。おまえは生きて帰れなくなるからな……」
「真人のくせに……」
「うっせぇ」
鈴と真人はいつも通り。
いつも通りのままが、彼らの仲直りの合図。