それから、取り立てて変わったことなどなにもない。

 夕暮れである。

 オレたちは一緒に野球をしている。

 恭介はまだ来ない。

 本格的な練習はやはり行なわれない。

 休むメンバーもたいてい一人か二人ぐらいはいる。

 それでもそんな雰囲気は悪くなかったし、そもそも、こんなに大所帯となる前のリトルバスターズはやはりこのように気の抜けた感じだったので、オレとしては昔のリトルバスターズに戻ったみてぇで、静かでいいな、とか、気楽に筋トレできていいぜ、というぐらいにしか思っていなかった。それはそれとしていいはずであった。

 オレはよく理樹を連れて小毬の秘密の場所に遊びに行った。

 小毬はそこで一人か二人きりでいるのが好きであるらしく、積極的にみんなを誘うことはしなかったが、小毬に休み時間などに予定などを聞くと、昼休みには屋上でこっそりご飯を食べるとのことだったので、オレたちもこっそり(小毬の秘密の場所を汚したくないため)同伴させてもらったりしたのだ。

 たいていオレは、理樹が一緒であった。

 たまに鈴と二人で行ったときもあった。そういうときは理樹が来ヶ谷や三枝あたりのおもちゃとして使用されているときだった。

 鈴も一人で行くときがあるらしい。

 しかし、小毬の秘密の場所を知っている人間といえば、オレか、理樹か、鈴ぐらいしかいなかった。

 あとのメンバーには、教えるなら教えてもいいが、積極的に教える理由はそもそもなく、もし全員に知れ渡ってしまったら、小毬はきっとあの場所をみんなの場所として解放し、自分はあの場所を捨ててどこか別の場所に行くということになるかもしれないし、そうすると、なんだか、小毬のことを裏切った気持ちになるので、オレたちは極力あの場所のことを話題にしなかった。他のやつらに秘密を知らせるときが来たとしたら、それは小毬の意思によるほか、ありえなかったのだ。

 オレはあれから、理樹や鈴と一緒に何度も小毬の秘密の場所へとお邪魔したが、しだいに、オレは、あの夕焼けの静かな時間に在った、とても静かで穏やかな小毬と話してみたいという気になっていた。

 しかしそれは、小毬と二人っきりになる必要があり、もともと女子と二人っきりになることに慣れていないオレは、自分からそういった申し出をすることが、いやに憚られた。

 そしてたいてい、小毬のあの顔が見られるかもしれねぇ、見たいな、見たいな、と思うときは、平静を装って理樹に「なぁ、今日は小毬んとこ行ってみねぇ?」と話を持ちかけるのだ。我ながらなかなか小心者であった。

 そしてそんな時は、やはりオレの因果応報であるがごとく、小毬のあの静かな顔には触れられないでいるのだ。

 そこにいるのはいつものほんわかとした小毬の顔であった。

「なんだか楽しいよ〜」

 小毬は、ポッキーをかじりながら、この上ないような満面の笑みで、そういった。

「どうしたの? 小毬さん」

「だって、みんながよくここに来てくれるようになったんだもん。私、ここの場所好きだけど、ここにいるときはずっと一人だったから、なんだか賑やかになっていいな〜って」

「なんなら、くどとかも連れてくるか?」

 鈴がそういった。

 小毬はその笑みを崩すことなく、

「うん。鈴ちゃんが好きに話しちゃっていいよ」

 と、言うのであった。

 しかし鈴は、その小毬の言うとおりには、なかなかしないであろう。

 クー公のことが嫌いなわけではない。

 ただ小毬にたいしてちょっとすまない気持ちになるため、少々迷う必要があるのだ。

 どちらにしろ、ここを大勢の集まる場所としていいのか、悪いのか、知ることはできない。

 小毬しかそれは知らない。

「みんながここを好きになってくれると、うれしいな〜」

「でもそれだとよ、ここで大騒ぎしてっと、先公どもがうるせぇんじゃね?」

「まぁ確かにねぇ……真人のいうとおり、生徒指導の先生とかに捕まっちゃうかも」

「あっ、それはだめだね〜」

 小毬はそういうと、驚いて心配したような顔になる。

「っていうか、その前にぼくは風紀委員の人たちに見つからないか、心配だよ……」

「なんだ。ここは侵入してはだめなのか?」

 一人、なにもわかっていない猫頭の馬鹿がいる。

「う〜ん。特別禁止規定にはなってないはずだけど〜」

「いや。禁止規定に載ってるよ」

 理樹はやや呆れた顔でそういうと、学生手帳を開いて、校則のページを取りだして、小毬に見せる。

「ほら」

「わぁ〜。ほんとだぁ〜」

「なら、今あたしらがこうしているという時点で、あのおっかないはるかの姉貴に目をつけられている、ということなのか?」

「バレたときはな」

 オレは嘆息した。風紀委員長の説教はあまりにもくどすぎて、半ばこの学校の名物と化しているぐらいだ。そんなことを言い合っているのはオレと三枝と恭介ぐらいだが。

「なんだそれは。大変なことじゃないか」

「まぁ……実際危ないところだしねぇ。屋上は。ちゃんとこうやって禁止規定立てないと、もし怪我なんかしたら、学校側は言い訳できないし」

「けっ。結局、責任逃れってことかよ」

「真人君。そういうこと言っちゃ、めっ、ですよ」

「へいへい」

 オレは首を横に振る。

「危ない場所なのは変わりないんだから〜」

「えっと。でも、小毬さんはここによく来るんだよね」

「そうだよ〜」

 小毬はにこにことしている。理樹は頭を抱えた。

「わたしは慎重だから大丈夫だもん」

「慎重かなぁ……」

「少なくともこの馬鹿よりは慎重だな」

「あっ? なんだとこら、てめぇ」

「やるか?」

「おう。なにで勝負だ? こら」

「もー。二人とも」

 と、まぁ、このような感じで、オレたちは様々なことを話しながら、この屋上の秘密の場所によく出入りしていたわけだが。

 不思議と、気になるのは、この場所に立っていることが風紀委員や先公たちに見つかることではなく、小毬の真意であった。

 小毬はこの場所をどうしたいのか、あまり口に出さない。

 この好きな場所を、みんなに好きになってもらいたいとか、なんか優等生じみたことを言っているが、オレはあまりこの言を信用していない。

 それはオレにややひねくれた目もあるからかもしれないが、やっぱり、小毬のこの場所がみんなの場所になってしまうと、必然と、小毬はあの小さな、神聖な顔を、どこか他の場所とまた括りつけなくてはならなくなる。オレはその小毬の顔を偶然知っているから、やはりここをみんなの場所として解放することが、真に小毬の本意でないことを、うすうす感じているのだ。

 少なからず、残念に思う気持ちもあるだろう。

 オレはそれを小毬に問いただしたいと思っていた。

 だが、もしオレが小毬にそれを問いただしたとして、こっちが小毬に遠慮しているということがもしあいつに伝わったら、それはそれで小毬も傷つくだろうと思って、オレはなかなか言い出せなかった。

 そのうち、オレは、なんだか、理樹や鈴を連れて小毬に会いに行くこと自体、オレ自身、そこまで心から望んでいることではないということに、だんだん気づいてきた。

 オレが話したいのは、小毬自身とだったこと。

 またあの小毬に会えるかもしんねー、と思って、理樹たちを小心から侍らして行くわけだが、結局会えない。

 つまり、あんまり意味がない。

 オレはあのとき、本当に偶然に、小毬の本心を聞けた気がする。

 どうしてだったのだろう。

 オレにだったら、小毬は、遠慮なく腹にあることを話せるのだろうか?

 オレはそう考えたが、その直後、そうした仮想から妙な想像を膨らませている自分に、嫌気が差した。

 考えるのを止めた。

 筋トレに励む。

 そうやって日々も過ぎていく。

 

 オレはそれから、よく理樹と小毬のことについて話していた。

「なんだか元気ねぇよな、最近の小毬」

「えっ? そう?」

 理樹はまったく見知らぬ顔である。

「そんなところあったかな?」

「あ……いや、」

 オレはそこまで口にしておいて、気がついた。

 元気がない、と思った原因。それは、オレがあのとき二人っきりで会った、静かな小毬の表情を見たこと。

 理樹がそのことを知っているはずがないのだ。そもそも「元気がない」という言葉も、かなり語弊があった。

「べつになにか悩みがあるようじゃなかったんだけどよ、なんとなく……そう思って、な」

「へぇぇ」

 理樹はなぜかしきりに感心している。

「よく見ているんだね。真人」

「よせやい。筋肉さんが照れるじゃねぇか」

「そういえば真人は昔からそんなことが得意だったね」

「えっ? そうだったか?」

 そんなことは人によく言われても、自分ではあまり意識していないことである。

「ぼくはあんまり小毬さんの変化には気づいてないけれど、確かに、ちょっと小毬さんのことを見ていて不安に思うことはあるよ」

「おう? そりゃ、なんだ?」

「小毬さんって、いっつも笑顔だから」

「あー」

 理樹は苦笑した。

「なんだか、心のどこかで溜め込んでることとか、あるんじゃないかな、って思ってさ。自分でも気づかないうちに」

「そりゃあるかもしれねぇぜ。人間、よくあることだしな」

「じつはぼくもよくあるから」

 理樹はまた苦笑している。

「それにしても、あれだよ、べつにオレは、小毬はそういうんでもきっと本人は望んでやってると思うんだよ」

「え?」

「なんつーかなー……オレはな、なんとなく、そういう小毬をよくない小毬だとは思わないわけよ。なんつーかな、あいつの良いところって、それ自体じゃねぇかな、って。おまえの良いところも同じであるようによ」

「なんだか真人、すっごい深いこと言ってるよ」

「そうかな」

 オレは頭を掻く。

「なんつーか……あんまうまく言えねぇけどよ、オレはべつに、小毬がなにか腹に溜めていたって、それはそれで小毬は悩みを持ってるわけじゃねぇし、とりわけて問題でもねぇと思うから、そのままでもいいと思うんだよ」

「うーん……」

 理樹はちょっと難しげな顔をしていた。

 今ので伝わったのかな。オレの言いたいこと。

「なんとなくわかったけどさ、真人」

 理樹はちょっと真面目な顔になる。

「それじゃどうして、真人は小毬さんのことを心配してるの?」

「へ?」

「ほら、最初に言ったでしょ。小毬……元気ないな、って。あれはいったいどうしたの? 真人は小毬さんのことでなにか気になることでもあるんじゃないの?」

「は、え、えーっと……」

 オレは頭を掻く。

 唐突に柔らかいところを突かれた気分である。

 そうか。そういえばオレ、そうやって話を切り出したんだった。

 うぜ……結局オレの言ってることって、自分で自分の矛盾点を作ってるようなものじゃねぇかよ。理屈ばっかり達者で……なんかだせぇな。

 なんなんだろな。この気持ち。

 オレは小毬のなにが知りたいんだ?

 オレの心のなにが、こんなに小毬の謎に惹き付けられるんだ。

「あー……まぁ、なんつーか……」

 オレは頭を掻きながら、決まり悪く答えた。

「小毬のやつ、なにしてんだろな。とか、思ってよ。なんかさ、すっげー小毬がいいやつだって思えた瞬間があったんだよ。そんなときはもう過ぎちまったけどよ」

「えっ?」

 理樹は目を丸くしている。

「それがなんだか、あまりにもいいやつすぎたからよ、もっかい会いてーなー……と思って待ってるわけだが、なにをどうしたらいいのかわからなくってな。いや、今のままでも十分いいやつなんだが、なんか、オレの感性にビビッてきた瞬間があってよー……その顔を求めてるんだが、あんま会えなくってな。それで、もう一度小毬のそんな顔を見るためには、どうしたらいいのかなとか、あいつ、じゃあ、どういったときにそんな感じになるのかな、とか、じゃあいつもなにしてんだろうな、とか、色々作戦考えちまってよー」

「真人……」

 理樹はなんだかオレのことを生暖かい目で見つめている。

 オレはどんどん饒舌になった。

「そういやよ、理樹は小毬を動物にたとえると、なんだと思う? オレはウサギかネコか、うーん……なんだか穏やかな動物に思えるわけだが」

「真人」

 理樹は微笑んで、またそうやってオレの名前をもう一度呼んだ。

 オレは目を丸くした。

「んだよ」

「真人。小毬さんに惚れてるでしょ」

「はっ、な、なぁにぃ――――――っ!」

 オレは跳び上がるようにして立ち上がった。

 オレの体全体に衝撃が走った。

「な、な、なんだとぅ! オレが、小毬に、ほっ、惚れてる!?」

「しっ」

 理樹は口に人差し指をつけた。

「声が大きいよ。真人の大声だと、ほかの部屋まで聞こえる」

「おっ、お、おお……」

 オレは狼狽しながら、しゅるしゅると理樹の目の前で小さくなった。

「どういうことだよ、理樹……」

「どうもこうもないよ」

 理樹はいった。

「完全に惚れてるでしょ。それ」

「え、ええー……」

 オレとしては、なんだか納得のいかない気持ちであった。

「惚れる」というのは、もっとこう、なんだかな、体が弾けるように熱くなるようなもんだと思っていたから。

 こんなまったりしたもんだとは思っていなかった。

「おまえどうしてそんなことがわかんだよ」

「だって、理由もあんまりないのに、その人のことが気になってしょうがないんでしょ? 普通、好きでもない女の子のこと、いま何してるのかとか、動物に例えるとどうだとか、言わないよ。考えないよあんまり。それに、小毬さんのこと話してるときの真人って、すっごく面白かったから。なんか浮き浮きしているよ」

「な、なぁにぃ……」

 オレは恥ずかしくなった。

 惚れている。

 そんな事実を頭の中で認識するとき、なんだか自分の身には余ることのようで、猛烈に恥ずかしくなるのだった。

「マジか」

「十中八九、当たりだと思うよ」

「当たりかぁ……」

「ちなみにぼくは、真人が本気で小毬さんにアタックするんなら、応援するけど」

「いやっ! まて、まてまてまて! それはちょっと待て!」

「真人。声」

「あ。悪ぃ」

 オレは赤い顔を押さえた。

 やべぇ。めちゃくちゃ狼狽してる。声を抑えねぇと……。

「ともかくだな、」

 オレは理樹と膝をついて座り、小声で話した。

「どうしてそんな、いきなり話が飛躍すんだ? べつにオレ、小毬にたいしてそういう気持ちは……」

「好きじゃないの?」

 理樹はそう問い返してくる。

「今、真人の中に、小毬さんのことが好きっていう気持ちが、ほんとにないの?」

「いや、あるにはあるが……」

「女の子として、ってことだよ」

「うっ……」

 友人として、って言おうとしたんだがなぁ……。

 まずい。これはまずい。

 しかし、「女の子として」好きか、かぁ……。

 あるのかな、オレに……。

 うーん。

 ないわけじゃ、ねぇんだけどな……。

「いや……ある」

 オレはそう答えた。

「それが全部の答えだよ」

「いや待て。オレはべつに、小毬にたいして不純な気持ちを抱いているわけじゃぁ……」

「あはは」

 理樹は笑っている。

「それはそれでいいんだよ。でも、『不純』って、相手のことが好きになることを指しているわけじゃないから」

「そりゃそうだけどよぉ……」

「ともかくぼくは、それなら真人のことを真剣に応援するよ」

 やたらと理樹はオレを見てにこにこしている。

 んだよ。そんなことが、こいつにとって嬉しいのか?

 なんだかよくわかんねぇなぁ……。

「ちなみに理樹は、いま好きなやつとかいんのか?」

「えっ!」

 理樹はオレがこう尋ねると、非常に怪しい反応をする。

 口を押さえて、恥じらうように、目をキョロキョロとさせている。

「う、う〜ん……」

「その反応、アリだな」

「ちょっと待った! そう決めてしまうのは早いよ!」

「るせぇ! てめぇだけうまく逃げようとすんじゃねぇ!」

 オレが執念込めて理樹に好きな相手を聞き出すと、なんと、それは、

「鈴です……」

「おおー」

 鈴だった。

 オレはぱちぱちと無意味に拍手をした。

「お似合いじゃねぇか」

「そ、そうかなぁ……自分としては、もうどうしたらいいのか、さっぱりわからないんだけど」

 理樹は自分のことが話題にされると、ひどく気弱になる。

 目を伏せて、恥じらう様子を見せている。

 しかし理樹も、鈴のことを語るときの様子は、ひどく楽しげだ。

「はー……どうしたらいいのかなぁ……」

「ためしに告白してみりゃいいだろ」

「甘いっ! 甘いよ!」

 理樹はそういって熱く語り出した。

 やたらと長い話だったが、ようするに、長年付き合ってきた幼馴染みの鈴に、今さら恋心を持つのは、まず自分としても当惑だという話であった。

「告白して振られちゃ、もう終わりなんだよ……」

「鈴のことだろ。べつにあんまり気にしねぇと思うぜ。態度も変わらねぇだろ」

「ぼくにとってはそのことこそが、最高に辛いことなんだよ……。もし告白して、オーケーもらえなくって、それで今までと同じ態度取られたら、多分、ぼくは失踪する……」

「おいおい。物騒だな」

「ぼくは本気だ……」

 その後もさまざまな、女の子議論が取り交わされた。

 オレは理樹から色んな鈴の姿を聞かされ、なるほど、そう言われてみると、あいつも意外と可愛いやつだったんだなぁ、と再認識するようになった。べつにこいつみたいに付き合いたいとか、そういう気持ちにはならねーが。

「もしかすっと、理樹、もしオレが、さっき鈴のことが好きだって言ってたら、友だち関係壊れてたか?」

「いや。まさか」

 理樹は手を振る。

「でも、確実にぼくは焦って、事を急ぎすぎて一人で玉砕していただろうね」

「ひゅうぅ……」

 オレは、友人をそんな可哀想な未来に送り込まないですんだことに、心底ほっとした。

「よかったな。そうはならねぇで」

「うん……ぼくは、鈴にたいしては、かなりの持久戦になると思うから……」

 理樹はつらそうな顔で嘆息していた。

 オレは、あんな鈍感馬鹿な鈴を本気で好きになってしまったこいつに、ちょっとした憐れみを感じた。

 告白できるころには、おばあさんになってるんじゃなかろうか。前途多難だな……。

「ほんと、オレの好きなやつが小毬でよかったな」

「ほんと、よかったよ。……って、あっ」

「ありゃ」

 オレはたった今なにげなく呟いた一言に、自分で目を丸くした。

「うわちゃー……」

「やっぱり好きなんじゃん。真人」

「うっせぇ。仕方ねぇだろ。そういうふうになっちまったからには」

「安心してよ、真人」

 理樹はなんだか大まじめに、自分の胸元に手を置いた。

「ぼくは真人の味方だから」

 そういうことがあって、オレは、直枝理樹という強力な恋のパートナーを得たのであった。

 

 そこからが問題であった。

 小毬。

 小毬のことが好きだ。

 いや、正確には、好きであるらしい。

 オレには、経験したことがねぇから、好きとかそういう気持ちがなんなのか、よくわからねぇ。

 けど、「小毬のことが好きだ」って一度認識しちまうと、なんだかあの栗毛のほんわかした少女のことが、本気で可愛く思えてくる。

 一つ一つの動作に、煌めきを感じる。

 じっと観察していると、よくその人物の良いところが見えてくる。

 声の抑揚だとか、目のくりくりしているところだとか、髪のサラサラ感だとか、足の細さとか、それと、これ、これが一番なんだが、なによりも笑ったところ!

 笑顔が可愛いんだよなぁ……小毬。

 あーあ。このオレの目の前にいるやつも、あんなふうに笑えば、ちっとは可愛いんだけどよ。

「なんだ?」

 鈴が目を鋭くしてこっちを見た。

「馬鹿があたしのことをじろじろ見て気持ち悪いな。蹴っ飛ばすぞ?」

「おまえ、よく何も言ってねぇ善良な一市民にそこまで無駄な悪態つけるよな……」

「うっさい」

 鈴はオレの隣の席で、理樹の机から勝手に数学のノートを取り出して、答えを写させてもらっている……。

 理樹は、いったい全体、こいつのどこが好きになったんだ? なんだか理解しかねる……。

 あーあ。理樹の恋人になったらこいつは、きっと理樹の宿題写させてもらい放題なんだろーなー。くそっ。

「馬鹿はほっといて、あたしは数学の方程式を解かねばならん」

「勝手にやれよ」

「フン」

 鈴はこそこそと机にかじり付くようにして、理樹の解答を写している。

 オレは小毬のことを見つめていた。

 なんだかなぁ……。

 気になるんだよなぁ……。

 でもべつに、なんだろう。

 とくに今すぐあいつのことをどうにかしたいってわけじゃねぇんだよなー。

 どうにかっつーのは、ようするに、告白して恋人になるってことだ。

 べつにオレは、今すぐにはそんなこと望んでねぇんだよなぁ……。

 友だちになりてー、っつーか。

 仲良くなりてー、っつーか。

 相談とか、全部オレに回してほしいし。

 オレも、なんか困ったことがあったら、小毬を頼ってみてーし。

 そういう仲で、自然と仲良くなっていけたら……。

 あぁ、そうなんだよな。

 自然と結びつくのが、なんだか本当だって思うんだよな。

 オレが今できることなんて、ほとんどねぇ……。

 だっていうのに、

「甘い!」

 理樹はこう言うのだった。

「甘いよ。甘すぎるよ真人。この前食べた小毬さんのワッフルもたいそう甘かったけど、今の真人の甘さはそれ以上の超特大だよ。もう筆舌に尽くしがたく感じるよ」

「よく噛まねぇで言えたな、それ」

 理樹はだいぶ早口に言い切ったのだった。

 オレは呆れつつも感心していた。

「いいかい、真人」

 理樹はルーズリーフを取りだして、シャーペンでなにかを書き出した。

「真人は来年の春にはこの学校を卒業するんだよ」

「再来年だろ」

「間違えた。再来年だった」

 理樹は書き直す。

「真人は再来年には卒業するんだよ」

「それがどうした」

「そうすると小毬さんにはもうほとんど会えない」

 オレは胸を重くした。

 それは紛れもない事実であったからだ。

「それに考えてもみてよ、」

 理樹は続けた。

「もし来年になって、三年生になったら、クラス編成で別々の教室になっちゃうかもしれないよ? そうしたら、真人どうするの? いや、そもそも真人進級できるの?」

「進級できるよ。なにげにひどいこと言うな、てめぇ」

「悪かったよ。もしなんだったら、ぼくも勉強手伝うから」

「ちっ……」

 オレは頭の中で、一学期の成績の惨憺たるありさまを思い出していた。

 しかし、人間にとって見栄は大事であった。

「まさかね、クラスが別れてしまった後も、リトルバスターズが解消されたりなんかはしないだろうけど、まさか本当に、小毬さんがそのまま真人を想い続けてくれるだなんて、思っているんじゃないだろうね?」

「うっ……」

 それは、希望としては、ある……。

 しかし実際、ないだろう。そんなお人好し、どこにいる。

 普通は距離感とともに心も離れていく。

 それは小毬だろうと、どうしようもないことなのだ。

「だからね、真人」

 理樹はルーズリーフに、だっと、線を引いた。

「今のうちに、小毬さんの中で真人の存在を大きくしておく必要がある」

「どうやってだよ」

「それは、色々ある。たとえば、一緒に街に買い物にいったり、昼食を一緒にしたり、登下校を一緒にしたり、あるいは、一緒にお勉強会とか……」

「うぉぉぉ……」

 オレは頭を抱えた。

 なんだか難しそうなことばかりだぜ……。

 っていうか、考えれば考えるほどに、オレと小毬って、なんだか相性わるそー……。

 あんなほんわかした清純そうなやつは、もしかすっと謙吾みてぇなやつが好きなんじゃねぇかな。謙吾のやつも正統派美男子だもんなぁ……。

「どうしたの、真人」

「いや……。なんでもねぇ。諦めちゃだめだよな。何事も」

「えっ。もしかしてこれだけで諦めそうになってたの?」

「んっ、んなわけねぇだろ! で、次はなにすりゃいいんだ!」

「何をするもこうするもないよ」

 理樹はルーズリーフを手にとって、ひらひらとした。

「とにかく、手段ならいくらだってある。なにか一つでもこっちから行動を起こさなきゃ。相手からこっちに近寄ってくれるって、すごい虫の良い考え方だと思わない? 真人」

「う、うーむ……。確かにその通りだぜ……」

 オレは腕を組んだ。

 理樹に尋ねる。

「そういや、おまえはなにかそういう努力はしてんのか?」

「うっ……」

 理樹はここでどん詰まりになる。

「メールを、たまに……」

「たまにかよ。なんてメールを送ったりすんだ?」

 オレは、参考とばかりに、理樹の内情報を聞いておこうと思った。

「い、いいでしょべつに! どんなメールを鈴としたって!」

「どーせおまえ、あいつの猫のドンキーコングとかが、おねしょしてたねとか、そういうことだろ」

「ドンキーコングなんていう猫は鈴の飼い猫の中にいないよ! あと、猫っておねしょするの!?」

「さぁ?」

「……」

 理樹は拳をぷるぷると振るわせている。

 あっ。キレるかな。

「もうとにかくいいんだよ! ぼくと鈴のことは!」

「なんかその様子だと、うまくいってそーにねーな」

「うう……」

 理樹は唐突に涙目になった。

「じつはメール、三回に一回くらいしか返ってこない……」

「うわー。そりゃひでぇな」

「でしょー!?」

 その後の理樹は、やたらと鈴の愚痴ばかり、とりわけその冷たさに、非難を浴びせるのであった。

「まじでひでぇな、あいつ。ことによると叱ってやろうか」

「え、ええっ。いいよいいよ!」

 理樹はここでオレに手を振る。

「いいのかよ?」

「うん……。なんかぼくも、唐突なおかしいメールばっかり送ってたから、相手のこと困惑させてるのかな、って……」

「なんだか殊勝な心がけだな」

 オレは素直に感心してしまった。

「鈴はたいてい男っぽくてボケてるところもあるが、男関係だけは人一倍敏感だからな」

「うん。怖がらせちゃってるかもしれないし……」

「おまえも大変だな」

「うん……。真人は、どうして鈴のことを叱ろうとしたの?」

「オレか?」

 オレは、どん、と手で胸を叩いた。

「そりゃ、悪いことしてんなら叱らねーとな」

「あはは」

 理樹は苦笑した。

「まるで真人、鈴のお父さんみたい」

「おう。オレはあいつの親父的キャラで行こうと思ってるからな」

 理樹とはその後様々な話題で盛り上がった。

 ……とまぁ、これはつい先日の出来事であったわけだが。

 小毬に対するアプローチって、どうやりゃいいんだぁ……。

 難しい。

 難しいぜ、おいぃぃぃぃ……。

 しかし、よく考えてみろ、オレ。

 タイムリミットは、三月までなんだぞ。

 そうしたら、あいつは、オレと全然ちげぇクラスに行っちまうかもしれねぇ。

 そうしたらどんなに手を尽くそうとも、終わりだ。

 よし。三月を告白の時期としておこう。

 取りあえずそう予定を立てておこう。

 そうすりゃ、どんな結果になろうと、取りあえずオレの存在は、忘れねぇだろうし、またそこから時間をかけてゆっくり口説いていくことだってできるはずだ。

 くー。

 考えれば考えるほど難しいことに思えてくんな。

 べつに告白すんのはたやすい。

 そういう雰囲気だったらな。勢いに乗りゃあいいだけだ。

 難しいのは、そこでオーケーがもらえない、少なくとも即振られ! という状況にしねぇことなんだよなぁ……。

 そうこう考えていると、肩をぽん、と柔らかい手で叩かれた。

「い〜のは〜らさんっ!」

 振り向いてみると、それはクー公だった。

「おう。なんだ、クー公。楽しそうじゃねぇか」

「はいっ。最近秋が深まって、過ごしやすくなってきたので、私としては、とっても元気なのです。わふーっ!」

「ははは」

 オレはわらった。

「そういやおめぇ、ロシアのほうの生まれだったっていうからな」

「はいですっ」

 クー公はそう頷いた後、

「ですから〜……ちょっと、日本の夏は苦手です……」

「クーラーもだめなんだっけか」

「はい〜……クーラーだと、お腹の下が冷えてしまいますので〜……」

「なんだか子どもみてぇだな」

「むむっ」

 クー公はなんだか面白くなさそうな顔になった。

 口を一文字にし、頬を赤らめている。

「そういうこと言うなんてひどいですーっ!」

「いててて! わはははは!」

 オレは叩かれながらも、笑い合った。

 ぽこぽことオレの肩を叩いているクー公。

 なんだか気楽だなぁ……クー公はいったいどうして、オレとこんなに仲良くしてくれているんだろう。

 友だちだから……だよな。

 それってすっごく簡単なことじゃねぇか。

 これくれぇ、仲良くなるのは、友だちだったら、すげぇ簡単なんだ。

 でも男女の恋人として、仲良くなるのは、なんか別の、すっげぇ魔法でも使わねぇと、無理なんだろうなぁ……。

 難しいよなぁ……。

「井ノ原さんは、ところで!」

 ぽかぽかと叩き終えた後、クー公は突然畏まっていった。

「秋はお好きでしょうかー?」

「秋?」

 オレは呆然とする。

「秋、かぁ。べつに好きでもなんでもねぇけど」

「そうですかっ」

 クー公はいった。

「じゃあ一番好きな季節はなんですか?」

「ん? 好きな季節かぁ……やっぱ、夏、とかかな」

「わふっ、夏ですかっ」

「おう。うん」

 オレはいった。

「夏ってよ、どこでも行ける、って感じするだろ。ガキのころから夏休みはすっげぇ好きだったなぁ……ものすっげぇ長い休みのように思えてよぅ……オレは夏が来るたんびに、どこかに行ってみてぇ、って馬鹿みてぇに計画立ててたものよ」

「わふー。なんだか楽しそうですー」

 クー公はなんだかにこにこしている。

「わたしが好きなのは、やっぱり秋なのですっ」

「へー、そりゃまた、どうして」

「日本の秋は清々しくって、いいのですっ」

「ほー」

 クー公の眼は、なんだかキラキラし出してきた。

「秋……天高し、ってよく言います。風は穏やかなのに涼しくって、それなのにちょっと寂しいのです。こういうときに、日本のお寺さんなんかにいって、お祈りをすると、とっても神聖な気分になれるのです」

「マジで」

 オレは驚きだった。

 なんだこいつ。神社仏閣マニアかよ。似合わねー。

 ギャップがありすぎて面白すぎるだろ。

「クー公はよく寺とかに行くのかよ」

「おじいさまによく連れて行かれますっ」

 クー公は両手を大きく広げた。

「もうおじいさまは、ほとんどすべての日本の山に登ったことがあるそうですよ! 山って、知ってますか、井ノ原さん! お寺や神社はですね、山のほうにあるのを奥宮、麓のほうにあるのを里宮といいまして、山のほうでお祈りするのが本当なんですよ! 私は寒がりなので、里宮の神社にしか行ったことがないですけど、おじいさまの話に出てくる、奈良の神聖なお山の空気は、とっても憧れますので、いつか体を鍛えて行ってみたいと思うのです!」

「へぇぇ……夢が溢れてんな。そうすっと、やっぱり筋肉に頼らなきゃな」

「筋トレもちょっとずつ頑張ってます!」

「ちょっとずつでいいからよ、ストレッチは忘れるなよな。無理したってだめだからよ。わからねぇことあったら、遠慮なくオレに聞けよ」

「はいっ!」

 クー公はそんなことを言って、子どもっぽい笑みを浮かべて、元の席に帰っていった。

 なんだかなぁ……。

 クー公とは、やっぱ友だちだよな。

 この馴れ馴れしさってのは、やっぱり友だちなんだよな。

 クー公はオレのこと、友だちって思ってるよな。

 はぁぁ……こういうもののほうが、やっぱり楽だぜぇ……。

 なんて面倒くせぇんだ、恋って……。

 望むものが、高すぎるからだよな……。

 べつにクー公みてぇに、友だちでいいよな、って思ってるやつにゃぁ、オレも気兼ねなく当たれるし。

 逆に小毬相手だと、気が抜けねぇから、どうやって会話したらいいのかもわからねぇし、そうすっとかなり疲れるんだよな……。

 そもそもどうやって話しかけるべきかわからねー……。

 ちくしょう。諦めちゃだめだよな。

 オレは、べつに今すぐ小毬と付き合いたいわけじゃねぇんだ。

 そもそも、それは最初の問題じゃねぇ。

 もっと、小毬に近づきたいんだ。

 一緒にいられりゃぁ、とりあえずそれでいいんだ。

 そもそも、オレはそういった段階すら、まだ踏んでないわけだ。

 なにから始めっかなぁ……。

 いきなりメールとか、突然で不自然だよな。

 普通に話すか。

「よー」

 オレは席から立ち上がって、小毬のいるところに近づいていった。

「なに話してんだよ。オレも混ぜろ」

 小毬はこちらを振り向いた。隣にいたのは来ヶ谷である。

「なんだきみは。きみも胸を揉んでほしいのか」

「はぁっ!?」

「い〜や〜! べつにそんなことしてないからぁ〜〜!」

 小毬は真っ赤な顔で泣きわめいている。

 来ヶ谷は手をわきわきとさせて(嫌らしい動きだった)、にたりと微笑んだ。

「なに。隠すことはない。もっと堂々としていればいい」

「それ、全然意味わかんない〜!」

「あと、念のため言っておくが、私は男のおっぱいを揉みしだく趣味はない。残念だったな、真人少年」

「オレもそんな趣味はねぇよ!」

 オレは叫んだ。

「ったく、真っ昼間からなにやってんだ、この公然わいせつ女……」

「なに。そうすると真夜中だったらいいと言うのか」

「え〜!」

「だれもそんなこと言ってねぇだろ!」

 オレはつっこみをやった。この女といると、甚だ自分がつっこみ役となるのだった。

「……ま、まぁ、もしそういう関係であったとして、やるんなら真夜中とか、人の見えねぇところで……」

「うっすらと顔が赤くなっているぞ。きみ」

「わ〜!」

「うっせぇ! この野郎、勝負すっか!」

 オレはファイティングポーズを取る。

 来ヶ谷はひとしきりわらって、

「あははははは。真人少年もなかなか面白いやつになったな。さて、それじゃ私は失敬しよう」

「逃げるかコラァ!」

「なに。邪魔はせんよ。楽しみたまえ」

 そういって妖しく微笑み、手をひらひらとさせて、去っていった……。

 あとに残ったのはオレと小毬の二人である。

「ふぅ〜……で、なにやってたんだ、小毬?」

「もう忘れさせて〜……」

 小毬は涙を流してぐったりとしていた。

 いかん。先刻の傷を掘り下げてしまったか。

「ま、まぁ、なんだ」

 オレはつとめて笑顔を浮かべた。

「あんま気にすんなよ。こういうときは筋トレでもしてスカッとしようぜ」

「スカッとしない〜……」

 しまった。

 これはオレ自身のストレス解消法であった。女である小毬にはそっくりそのまま通用するとは限らない。

 失敗だったぜぇ……。

 オレは慌てて立て直しを図った。

「それじゃぁよぉ、小毬のスカッとする方法って、なんだ?」

「ふえ?」

 小毬は眼をぱちくりとする。

「私の、スカッ、とする方法……?」

「おう」

 オレは問いかける。

 小毬は、うーん、と人差し指で、顎を支えた。

「お菓子とかかなぁ」

「お菓子でスカッとするって、かなり不思議なんじゃねぇのか……?」

 お菓子を食べて、普通の人間はスカッとしないと思う。

「あっ。そうか。スカッとは、確かにしないね〜。こう、まったりしちゃうね」

「驚かせるなよ、人を……」

「ふぇぇぇ、ごめん〜」

 そんなに赤くなって謝られても困る。

「う〜ん。スカッ、とする方法かぁ〜」

「ダーッ、って走るとかよ。漫画読んだり、散歩したり、バッティングセンター行ったりとかよ、ゲーセン行ったり、あとはメシ食ったりとか、そういうの色々あるだろ」

「う、うう〜ん」

 小毬はいささか苦笑気味であった。

「真人君の言うそれって、全部、男の子っぽいね〜」

「ゲッ、そうだった」

 オレは頭を抱えた。

 馬鹿。どこまでオレって野郎趣味なんだ。情けねぇなぁ……。

「私は、そうだね〜、たとえばお買い物とかかな」

「お買い物ぉ?」

 オレは甚だ驚く思いであった。

 なにか楽しいのか? あんなもん。

「あとはみんなで遠くに出かけたり、おしゃべりしたり、映画を見たりとか、かな〜」

「ほうほう。そいつはよくわかるぜ。なるほど、映画なぁ……」

 オレは、ここで、閃いたぜ、と思った。

「よっしゃ! 小毬、映画見に行こうぜ!」

「ふぇー!?」

 小毬は目が点になっていた。

「来ヶ谷の馬鹿のせいで、元気がなくなったなら、どうだ小毬、オレとなんか楽しい映画でも見に行かねぇか!」

「え、ええっとー……」

 小毬は考えている。

 どこかそわそわとしている。

 ええい。来るか。どうだ。来い。

 来い!

「……うん。いいよ〜」

「おう!」

 オレは喜んだ。

 うっしゃぁ、なかなか簡単じゃねぇか!

 なるほどな、こうやってだんだん自分の気持ちを伝えていくってわけかぁ……。

「あとほかに誰誘おうっか〜」

「へ?」

 小毬はにこにこと笑っている。

「あんまり真人君と一緒にいない人を誘ったほうが楽しいね。美魚ちゃんとか、どうかな?」

「あ、お、う、う〜んと……」

「よしっ。美魚ちゃん、きっまり〜!」

 小毬はにこにこである。オレは冷や汗が出る。

「あとは、真人君の近しい人を連れていきましょ〜。理樹君、きっとオッケーだよね。理樹君……っと」

「……」

「あとは私のほうで、みんなの予定聞いてみるね〜」

「……」

 オレは呆然としていたが、やや残っていた矜持によって、

「お、おう! 頼むぜ!」

 と、胸を手で叩いたのであった。

 ちっきしょぉぉぉぉ……。

 せっかくの二人っきりのデートかと思ったのによぉぉぉぉぉ……。

 西園と理樹付きかよ。理樹は味方だからいいけどよぉ……。

 西園なんて暗い女、ぜってぇオレのこと嫌ってるから、こき下ろすに決まってるし……。

 小毬のことだから、必ず女子全員には声をかけるだろうし……。

 そうすっと来ヶ谷とか面白がってついてきそうでやだなぁぁぁ……。

 ちっくしょー。

 もうしょうがねぇ。

 とりあえず、それまでになんか作戦立てるぜ!

 

 

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